第21話「玉を使ったら、想像以上にカオスな展開になった件」


「この玉、思ったよりすごいかもしれない……」


 茜は混乱の中、手に握ったお土産の玉をじっと見つめていた。異世界フェスでサバイバルゲームが始まったものの、彼女が投げた玉のおかげでクッションの海が出現し、無理やり戦闘は中断。場は一時的に和やかな雰囲気になった……かに思えた。


 しかし、茜の心中は複雑だ。なにせ、この玉、今までの経験からして「何が起こるか分からない」という一抹の不安があるのだ。


「でも、ここまで来たら、使うしかない……よね?」


 アレックスは、そんな茜の気持ちにまったく気づく様子もなく、相変わらずノリノリだ。


「茜! 玉の使い方がすごく良かったぞ! おかげで戦わなくて済んだし!」


「いや、たまたまよ。というか、お土産の玉でもあるけど、なにより神様の玉なんだし、もっと慎重に使うべきだったかも……」


「慎重? 玉は使ってなんぼだろ! さぁ、次はもっとすごいことしようぜ!」


 アレックスが言うとおり、フェスはまだ終わっていない。ステージ上では、新しい競技が始まろうとしていた。それは――


「続きまして、異世界フェス名物! 『最強玉サバイバルラウンド』!」


 司会者が大声でアナウンスすると、周りの観客が一斉に歓声を上げた。


「……また玉?」


「うん! 今度はみんなで一斉に玉を投げ合って、最後まで生き残った者が勝ちなんだ!」


「投げ合う……? いや、絶対に危ないでしょ!」


 茜はすっかり呆れ顔だが、アレックスは目を輝かせている。


「大丈夫だって! 神様の玉を使えば、絶対に有利に進められる!」


「それ、どう考えてもフラグじゃない……」


 その時、茜の手の中に再び玉が光り始めた。


「え? また光ってる……」


「それ、神様の玉の力が目覚めたんじゃないか?」


 アレックスが驚きながら玉を覗き込むと、突然、玉から神様の声が聞こえてきた。


「よぉ、久しぶりだな、茜」


「えっ、神様!?」


 茜は慌てて玉を握り直した。そう、これが神様からもらったアイテムなのだ。そして、彼の声が聞こえるということは――


「お前、今いい感じで混乱してるみたいだから、ちょっと手助けしてやるよ」


「手助け……? あの、何がどうなるんですか?」


「まぁ、見てりゃわかる。楽しんでこいよ!」


 神様の声は軽く、適当な感じだったが、その直後、玉が急に光り輝き始め、茜の周りで異変が起こり始めた。


「なんだこれ……!?」


 まず、玉から巨大な煙幕が上がり、周囲が一気に見えなくなった。次に、茜の体がふわっと浮き上がり、なんと空中に浮かび上がったのだ。周囲のフェス参加者たちは、突然の出来事にパニック状態。


「え、なにこれ!? 私、浮いてる……!」


「すげぇ! 茜、すごいじゃん! 神様の玉、マジで最強だな!」


 アレックスは大興奮しているが、茜はただただ困惑するばかり。だって、空中を漂いながら、下では参加者たちが彼女に向かって玉を投げ始めているのだから。


「ちょっと待って! これ避けられないってば!」


 神様の玉の効果で空中に浮いている茜に対し、参加者たちは次々と玉を投げ込んできた。しかし――


「ん? なんか、玉が全部避けてる……?」


 茜の体の周りには、目に見えないバリアのようなものが発生していて、投げられた玉が全て弾かれているのだ。


「これが、神様の玉の力……!?」


 一方、アレックスは自分も玉を投げようと意気込んでいた。


「よーし! 俺も神様の力にあやかって――」


 彼が力いっぱい玉を投げた瞬間、その玉はなぜか反転して彼の額に直撃。


「うわっ! なんで俺に!?」


 会場中に爆笑が巻き起こり、司会者までもがマイク越しに笑い声をあげている。


「いやぁ、これは予想外の展開ですねぇ! 玉を投げたはずが自分に返ってくるなんて、まさに神様のいたずらでしょうか!」


「アレックス、大丈夫!?」


 茜は空中から心配そうに声をかけたが、アレックスは頭を押さえながら「大丈夫……たぶん……」と返事をしている。


 その後も、神様の玉はどんどん予想外の効果を発揮し続けた。玉を投げた者は、自分の足元に巨大なクリームパイが現れたり、突然ピザの雨が降ったり、さらには空から落ちてきた猫耳が装着されたりと、もう何がなんだか分からないカオスな状況に。


「これ、絶対神様がふざけてるよね……」


 茜は半ばあきれつつも、少し楽しんでいる自分がいることに気づいた。異世界フェスのカオスな展開に巻き込まれながらも、神様の玉のおかげで、なんとか無事に過ごしている。


「まぁ、笑って過ごせるなら、それでいいか……」


 そして、彼女は再び玉を握りしめ、次の展開に備えるのだった。


 +++++


 次回予告:「神様の玉、調子に乗って使いすぎた件」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る