第19話「勇者がフェスで騒ぎすぎて、なぜか私まで巻き込まれた件」
「フェス? 何のフェスよ……?」
茜は、アレックスの言葉に首をかしげながらも、なぜか少し興味を持ってしまった。だって、あのアレックスが「超楽しかった!」と連呼するくらいのフェスだ。どんなものなのか気にならないわけがない。
「そのフェスって、いったいどんなイベントなの?」
「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに、アレックスが袋から謎のアイテムを取り出し始めた。カラフルなペンライトに、奇妙な帽子、そしてキラキラ光る謎のリストバンド――どう見ても普通のフェスとは違う雰囲気だ。
「これ、絶対普通じゃないよね?」
「普通じゃないのが良いんだよ! だって、これは異世界フェスだもん!」
「……異世界フェスって、どんなフェスよ?」
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アレックスが説明したところによると、この「異世界フェス」は、異世界中のさまざまな種族や職業が集まって、日常の疲れを忘れさせるために開かれるお祭りだという。フェスと言っても、音楽だけではなく、バトルあり、ゲームあり、もちろん食べ物ありの超カオスなイベントらしい。
「しかもね、参加者全員にプレゼントがあるんだよ!」
「プレゼントって、なにがもらえるの?」
「それがさ、異世界の『運』が詰まった特製アイテムなんだ。これを持ってると、どんなトラブルも回避できるって言われてるんだよ!」
「え、そんな凄いものが簡単に手に入るの?」
茜は半信半疑だったが、興味をそそられてしまう。しかし、アレックスのことだから、どうせまた何か面倒なことになるのだろうと、心のどこかで警戒心も抱いていた。
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「よし、じゃあフェスに行こう!」
アレックスは唐突にそう言い放つと、茜の手を掴んで魔法を発動させた。
「ちょ、ちょっと待って! 私まだ心の準備が――」
次の瞬間、茜とアレックスはフェス会場にワープしていた。
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目の前に広がったのは、信じられないほどカラフルでにぎやかな世界。巨大なステージでは、ドラゴンがギターをかき鳴らし、オークたちがリズムに合わせてダンスしている。隣では、魔法使いたちがバトルアリーナで超高速の魔法合戦を繰り広げ、観客が大歓声を上げている。
「……これが異世界フェス?」
茜は目を見開いてその光景を見つめた。明らかに普通じゃない。異世界だから当然かもしれないけれど、これは予想を超えたカオスだ。
「おっ、早速盛り上がってるね! 行くぞ、茜!」
アレックスはノリノリで、フェス会場の中を駆け回り始めた。茜も仕方なく彼を追いかけるが、そこで早速トラブルが――。
「うわっ!」
アレックスが何かにつまずいて転びそうになり、茜もつられて一緒に倒れ込んだ。地面に散らばったものを見てみると――
「なにこれ、ピザ……?」
「ピザじゃない、これ『フェス限定ドラゴンの爪ピザ』だよ!」
「いや、どっちでもいいわよ! とにかく踏んじゃったじゃない!」
アレックスはあまり気にする様子もなく立ち上がり、また別の場所へ向かってダッシュする。茜はその姿を追いながら、心の中で「本当に何でもありだな……」とつぶやいた。
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会場を進んでいくと、突然アレックスが茜を呼び止めた。
「おい、茜! あそこ、あそこ見てみろ!」
彼が指差す方向を見ると、ステージ上で何か奇妙な競技が行われていた。それは――
「え、あれ、バナナ早食い競争?」
異世界の住人たちが全力でバナナを食べまくるという、見たこともない光景が繰り広げられていた。オークがバナナを丸呑みし、エルフが優雅にバナナを一口ずつかじる。傍らではゴブリンがバナナを鼻に詰め込んでいて、観客が爆笑している。
「……なんか、めちゃくちゃだね」
「うん! でも楽しいだろ?」
アレックスの無邪気な笑顔に、茜は半ばあきれながらも少し笑ってしまった。確かにこのフェスは予想外の楽しさがあるかもしれない。
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しかし、茜がそう感じたのもつかの間、突如としてフェス会場に警報が鳴り響いた。
「な、なに!? なんの音?」
「わっ、これってフェス名物『緊急サバイバルゲーム』だ!」
「サバイバルゲーム? そんなの聞いてない!」
突然、フェスの全参加者がそれぞれ武器を手に取り、逃げ回ったり戦い始めたりする。どうやら、これがフェスのクライマックスらしい。茜もなんとか逃げようとするが――
「ちょっと待って! 私、戦う準備してないんだけど!」
アレックスは笑いながら茜の手を引っ張り、サバイバルゲームに巻き込んでいく。
「大丈夫! 運が良ければ、きっと勝てるって!」
「それが一番不安なのよ!」
茜は混乱しながらも、どうにかこのカオスなフェスを乗り切るために全力で走り出した。
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次回予告:「異世界フェスでサバイバルする羽目になったけど、玉の効果が思った以上にやばかった件」
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