転生したら神様がクソ適当だった件

柊れい

第1話「転生したら神様がクソ適当だった件」


「なんで私がこんな目に……!」


 桜井茜は目の前に広がる光景を見つめ、絶望的な気持ちになった。つい数時間前まで、彼女は普通の女子高生だった。家の近くの交差点で不運にもトラックに轢かれ、死んだ……はずだった。


 だが、気がつけば茜は異世界に転生していた。もちろん、よくあるラノベのように「転生特典」として何かしらの力をもらえるらしい。そこで茜は、最高にカッコいい魔法を手に入れ、異世界を自由に冒険する……そんな夢を見ていた。


「よぉ、新人」


 現れたのは、だらしない服装に無精ひげを生やした男。どう見ても神様には見えない。


「お前、あれだろ? 転生したいやつ」


「え、あ、はい。そう……ですけど、もしかして、神様ですか?」


「んー、まあ、そういうことにしておくか。で、何が欲しい? 魔法か? 剣か? 好きなのやるよ」


 茜は一瞬目を輝かせた。「最強の魔法! 私、魔法使いになりたいんです!」


「んー、最強の魔法ね。わかった、これだ!」


 神様は指をぱちんと鳴らし、茜の手に小さな玉を渡してきた。


「これ、あんたの転生特典な」


「え? これが魔法ですか? なんか、思ってたのと違うんですけど」


「まぁまぁ、使ってみればわかるよ。じゃ、頑張れよー」と神様は言い残し、フワッと消えていった。


 +++++


 次の瞬間、茜は異世界のど真ん中に立っていた。目の前には中世風の街並みが広がり、人々が忙しなく行き交っている。


「ここが……異世界?」


 感動も束の間、茜はすぐに異世界の洗礼を受けることになった。突然、街の角から大きなドラゴンが現れ、炎を吐きながら人々を襲い始めたのだ。


「なんでいきなりこんなモンスターが出てくるのよ!?」


 しかし、茜には最強の魔法がある。神様に渡された玉を握りしめ、必死に呪文を唱える。


「えっと……発動! なんとかなる魔法!」


 玉が光り始め、茜の手からふわりと何かが飛び出した――小さなスズメだった。


「……え?」


 スズメはドラゴンの方に向かって飛んでいくが、もちろん何も起きない。ドラゴンは完全に無視して、人々を追い回していた。


「ちょっと、待って! これが最強の魔法ってどういうこと!? 何の役にも立たないじゃん!」


 焦った茜はもう一度玉を握り、別の呪文を唱えた。「お願い、次こそは強い魔法で……『癒しの風』!」


 今度は柔らかな風が吹き、茜の髪を優しく撫でた。しかし、それだけ。風が弱すぎて、ドラゴンには何の影響も与えられない。


「ちょっと、神様!? どういうことよ!」


 茜が頭を抱えていると、近くの騎士が彼女に向かって叫んだ。「君、魔法使いなのか!? ドラゴンを止めてくれ!」


「私にできるわけないでしょ!?」と叫び返す茜。だが、目の前には燃え盛る街と怒り狂うドラゴン。逃げるにしても、状況は絶望的だった。


「……もう、やるしかないか!」


 茜は覚悟を決め、再び玉を掲げた。「最後のチャンス! 今度こそ最強の魔法、お願い!」


 玉が再び光り出し、今回は何やら期待できそうな予感がした――が、次の瞬間、巨大なピンクのハート型の風船が現れ、ふわふわとドラゴンに向かって飛んでいった。


「……なんなの、この魔法……」


 ドラゴンはその風船を見つめ、一瞬だけ動きを止めた――そして、次の瞬間、大きくくしゃみをした。茜はポカンと口を開けてそれを見つめるしかなかった。


「くしゃみ……しただけ? もう、帰りたい……」


 +++++


 その日の夕方、茜は街の片隅で途方に暮れていた。ドラゴンはなんとか街の騎士団によって退治されたが、彼女の魔法が役に立つことはなかった。


「神様、いい加減にしてよ……こんなの、全然最強じゃない!」


 と、その時、頭上からあの神様の声が降ってきた。


「おー、どうだ? 楽しかったか?」


「楽しいわけないでしょ! もっとまともな魔法をくれるって約束じゃなかったの!?」


「いや、最強の魔法ってのはあくまで気持ちの問題だろ? 心の強さが大事なんだよ、な? それに、次回はもっと面白いものやるから、期待してろよ!」


「次回って……もう勘弁して……」


 こうして、茜の異世界生活は神様の適当な魔法に振り回される日々で幕を開けたのだった。


 +++++


 次回予告:「勇者として召喚されたと思ったら、お使いを頼まれた件」

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