第28話 依頼
「突然訪問して申し訳ありません。アイザワ・ユキト様のご自宅でしょうか?」
朝方、玄関の扉を開けると知らない女の人が2人立っていた。
「どちらさまでしょうか……?」
俺は唸るシロを抱えながら尋ねた。
前に立つ女の人は眼鏡をかけて、スカート型のきっちりとした制服を身につけている。若干息が乱れているのは、あまり運動に慣れていない証拠だ。
俺もその気持ち良く分かる。
とはいえ、俺自身エリカさんやユイちゃんにステラさんを除いたら人と接点なんてない。本当に誰なんだろう。
「申し遅れました。私はクローリー支部のギルド職員。リーファ・ユグルドと申します。この度はステラギルド長からユキト様に依頼書をお渡しするようにと言われ参りました。今、お時間よろしいでしょうか?」
リーファさんはとても丁寧に接してくれた。
第一印象だけれど、とても信頼できそうな人だと感じた。
「大丈夫ですけど……一旦、中に入りますか? よければ後ろの方も」
俺はリーファさんの後ろにいる女の人にも声をかける。
リーファさんの後ろにいる女の人はアニメとかで見るエルフのような見た目をしている。
整った顔に尖がった耳が特徴的だ。
たしか、エルフって高飛車なんだっけ? 俺が良く見るアニメや漫画だと、すごくとっつきにくい性格をしていることほとんどだった。
扱いに難ありそうだったら、嫌だなぁ……。
「え!? ウチも良いんですか!?」
と思っていたけれど、全然そんなことはなかった。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます。彼女はラティア。私の護衛です」
「護衛のラティアっす!! よろしくっす!!」
すごく元気が良い……。
「ラティアさんですか。よろしくお願いします」
「はい!! 今後ともお見知り置いてくれると嬉しいっす!!」
まるでブラック企業の研修初日の後輩……いや、その表現は不適切だ。そう。まるで学生時代の部活の後輩みたいだ。こういう人はどこ行っても人に好かれやすい。
人の懐に飛び込めない俺とは正反対だ。
「ひとまず中で話を聞かせて下さい」
俺はそう言って、リーファさんとラティアさんを山小屋≪家≫に招く。
リビングに入ると、エリカさんはエアコンの風を浴びながら、缶ビールをグビグビと美味しそうに飲んでいた。
「うぉおお!! エリカ先輩もいらしたんすか!! お疲れさまっす!!」
「えっ!? ラティア? どうしてここに?」
エリカさんは缶ビール片手に驚いていた。
対して、ラティアさんはめちゃくちゃ嬉しそう。
今更だけど、昼間からお酒を飲んでいるエリカさんになにも驚かなくなってきた。
「ウチはリーファさんの護衛っす!! まさかエリカ先輩に会えるとは思ってなかったっす!!」
「いや、私もユキトさんの家で会うとは思ってなかったけど……」
そんなやり取りをしている横でユイちゃんはこちらに向かってトコトコと歩いて、
「りーふぁだ」
「あら、ユイさん。お久しぶりです。元気にしてましたか?」
「ユイはげんき」
ユイちゃんは両手でピースサインをする。元気なことは良い事だ。
「とりあえずお座り下さい。お茶を持ってくるので」
「あ、お構いなくも……」
俺は特に続きを聞かずに台所に向かった。ステラさんのお使いでここに来ているのに、さすがに何も渡さないのは気が引ける。
お湯を沸かし、緑茶を淹れる。
「粗茶ですが」
俺はリーファさんにお茶を出す。
「あ、ありがとうございます……いただきます」
リーファさんは緑茶をおそるおそる飲む。
ゴクリと飲んだ後、目を大きく開いた。
「とても美味しいですね、このお茶。なんてお茶でしょうか?」
「緑茶と言います。あとで少し持っていいっても構いませんよ」
「本当ですか!? ありがたく頂戴します」
日本人として緑茶を美味しいって言ってくれるのは嬉しい。
「それで俺にご用件って、どんな内容でしょうか?」
俺がリーファさんに尋ねると、リーファさんは少し恥ずかしそうな表情を浮かべる。
「し、失礼しました。ブルドーという村がございます。この場所からあまり離れていない場所です。そのブルドー村の近辺にロードドレイクとウォータードラゴンが縄張り争いをしているとのことで……早急に討伐してほしいとの内容です」
「つまり、このご近所さんが困っているから、俺達に白羽の矢が立ったということですか」
「そうです。条件付きとはいえ、この依頼を達成することができればユキト様の冒険者ランクも上がります。ギルド長の判断ではありますが、S級冒険者が2人もいれば問題ないとのこと」
「まぁ、たしかに……エリカさんとユイちゃんがいればそうかもしれないですけど」
「問題はロードドレイクもウォータードラゴンも単体での危険度はA級でして……もちろん依頼の拒否もできるのですが……」
リーファさんは申し訳なさそうに言う。
でもせっかくここまで来て頂いたのに、最初から断ることはできない。
「あんまり危ないことはしたくないですけど、ご近所さんが困っているなら仕方ないですよね……エリカさんとユイちゃんはどう思いますか?」
「私はユキトさんが受けるならお供しますよ!! 酔って気持ち良く寝ているところにモンスターに邪魔されて起こされるのも嫌ですから!」
「ユイもいい。でもはやくおわらせて、みずやりやりたい」
「そうだね。心配だよね」
たしかにここも被害を受ける可能性は否定できない。せっかくユイちゃんが頑張って育てる作物をダメにさせる訳にはいかない。
それにご近所さんが困ってるのを知らない振りもしたくない。
ここは日本人として助け合いの精神で行こう。
「分かりました。依頼はお受けいたします。ちなみに、ブルドー村ってどういうところなんですか?」
「そうですね……。村の名前にもなっているブルドーワインというお酒が有名なことを除けば、普通の村だと思いますよ」
「ワイン!?」
ワインが名産地の時点で普通の村ではないような気がするけれど、名産地と聞くと楽しみになってしまう。
依頼を達成したお金でいくつか買ってもいいかもしれない。
持って帰ってきたらお酒のつまみと合わせてみようかな。
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