第14話 査定の結果

「驚いた……こんな純度の高い鉄の小刀は見たことはない」


 ステラさんは驚いた顔をしている。


「それにこのの素材はなんだ? 持ち手が軽すぎる。こんな素材は見たことがないな……」


「えっと……それじゃあ値段を付けられないということですか……?」


 それは困る。値段が安かったら図々しくも買い取ってもらうやつを増やそうと思っていたけれど、


「ん? これならどんなに少なくても銀貨1枚以上の価値はあるよ。そうだ。待ってる間、ギルド入会の手続きをしてたらいい。エリカ。悪いけど代わりに案内してくれないか?」


「ユキトさんのためなら構いませんよ!!」


 元気良く返答するエリカさんに、ステラさんは目を点にしていた。


「……絶対断ると思ったのに……これが愛の力か。ステラちゃん悲しい」


 ステラさんはわざとらしく「ぐすん」とか言っているが誰も触れない。


 愛ではなくお酒の力と言った方がきっと正しいのだけど、余計なことを言わないように黙っていよう。


「このページは、報酬を受け取った際の手数料に関するページ……このページはギルドの規約に関するページ……」


 エリカさんはてきぱき説明する。


「あとはここに名前と職業を書いて終わりなのですが……」


 エリカさんは言いながら固まる。


「そういえば、ユキトさんの職業ってなんです? 魔法使いでも剣士でもないですよね?」


 ……たしかに。俺は仕事も辞めた訳だし、事実上の無職だよな。


「それって絶対に決めなきゃいけないですかね?」


「そうですね……ないと他の人達とパーティを組むのに役割が決められないんですよ。まぁ、私がいるので心配しなくていいと思いますが」


「ユイもいる。おおぶねにのったようなもの」


 いや、ありがたい話だけど。今はそんなことを言っている場合ではない。


「ん? テイマーじゃないのか? その子を飼っているのだろう?」


 ステラさんはシロに視線をやる。


 シロは「へっへっへ」と舌を出している。暑いのかな?


「え? まぁそうですが……」


 俺は少し考えた後、


「やっぱり、折角なら魔法使いにしますよ。シロには傷ついてほしくないですから」


「そうか。ユキトくんがそう決めたのなら好きにしたまえよ」


 ステラさんは話半分といった様子。


「ところで、ユキトくんに相談をしてもいいかな??」


「なんですか?」


「この小刀、ギルドを通さないで私に譲ってくれないかな?? 少し色を付けて渡そう……そうだな。金貨5枚とかでどうかな??」


「え!?」


 エリカさんは驚いた声をあげる。


 理由は分からないが言い方的には銀貨よりも高いだろ。


「構いませんよ。あ、もしもよければ育てられそうな植物と便利そうなアイテムがあれば融通して欲しいんですけど……」


「ん?? それなら、こちらで見繕っておこう。気に入ったものがあったら買う形でいいかい?」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「ちょっと待ってくれ」


 ステラさんはそう言って席を立つと、金貨5枚を机の上に置く。


「ありがとうございます。あ、ここから手数料の……銀貨1枚でしたっけ?」


「あぁ、それは私が出してあげよう。良い買い物ができたお礼だと思ってくれ」


「おぉ〜、ステラギルド長って、太っ腹ですね」


「まぁ、こんなところじゃ酒とタバコ以外に使い道はないからね。あと、こんなナイスバディな美女を捕まえてデブとはひどいじゃないエリカ~!」


「ステラギルド長? 分かってて言ってますよね?? とりあえず、ユキトさんのギルド加入の書類ですよ」


「あぁ、助かるよ。ささっと仕事するから待っていてくれ」


 エリカさんの感情の落差が激しくて、見ているこっちが風邪ひきそうになるな。


「あ、そうだ。今日はこの街にいるのだろう??」


「そうですね。そのつもりです」


「分かった。それでは折角なら今日は飲もうじゃないか。お姉さんが奢ってあげよう」


「嬉しいですが、シロがいるので……」


 異世界の料理……楽しみだったけれど、こればっかりは仕方ない。


「テイマーでも行けるテラス席もあるから安心して連れてきていいぞ」


「本当ですか? でしたらお言葉に甘えさせていただきます」


 シロも行けるなら断る理由もないし。


「もちろん、エリカもユイも来るといい」


「え? いいんですか??」


 ステラさんは「あぁ」と短い返事をして、2階に消えていった。


「エリカさんすいません。金貨5枚ってどれくらいの価値なんですかね?」


「そうですね……王都で普通の人の2ヶ月分の給料ですかね? 平均ですけど」


 いや、それだと分からない。


 だって俺、ここの生活基準分からないし。


「エイル何杯分です??」


「1000杯分ですね」


 計算早いな!!


 ビールが1杯500円くらいだとしたら……日本円換算50万円くらい……?


「いやいや、そんな受け取れないですよ」


 さすがにぼったくりがすぎる。もちろん俺が。


「いいんじゃないですか?? ステラギルド長が良いって言っているので」


 エリカさん本人は良いかもしれないが、逆に俺の方が良くない。

罪悪感が出てしまう。


「仕方ない。別のところでお返しをしよう」


 というか2か月働いて50万……1か月で25万ってことだろ?


 もちろん物価の問題もあるから一括りには言えないけれど。


 実は異世界の人達もブラックなのかな……。


 俺は内心そんなことを思うのであった。


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