side:セオドール

 ノアは俺の弟。だけどノアは生まれてすぐ、離れに隔離されたから、全然知らない。お父様や使用人が言うには、「いみご」なんだって。


 そんなノアを、誰も世話したがらない。だから父様はとうとう、絡繰人形を買って世話させることにしたみたい。


 「絡繰人形」。世に稀に出回るという、魔力を動力として動く人形。心を持たず、魔力を与えた主人に忠実。決して逆らうことはしない。それが人形。

 

 だったはず、なのに。


 目の前でノアの世話を焼く、ミカエルという人形は、人の心を持っているように見えた。さっき隠れてミカエルを見にきたところを、彼に見つかってしまったのだ。一瞬惚けた。だって、彼はあまりにも美しかったから。まるで雪の精のように儚くて、優しい。一つの芸術品のようだった。


 抜け出してきてよかった、ってそう思った。ミカエルには、ノアを見にきたんじゃ無いと看破されていたけれど、ノアの様子を見にきたっていうのも嘘じゃない。たった一人の弟なんだ。出来れば仲良くしたい。


 だけど、父様に見つかった。


 父様はミカエルを殴り付けた。ミカエルの白い頬は、陶器のような素材で出来ていたのか欠けたような音がした。


 父様は、ノアのこととなるとが外れてしまうらしい。普段はずっと黙っていて、黙々と仕事をしているような人なのに、駄目なのだ。ノアを公爵家の恥になるって思ってる。


 ミカエルが一杯蹴られて、俺にはどうしようもなくて、そんな時、ノアが動いたんだ。俺は信じられなかった。あんなに酷い仕打ちをしてきた父様に食ってかかったんだ。どれだけ怖かっただろう。どんなに勇気を振り絞っただろう。


 俺も何とか父様を止めていたけれど、ついに殴られそうになった。そうしたら、ミカエルは俺のことも守ってくれた。


 父様が逃げて行った後、俺は二人に全力で謝った。元はと言えば俺のせいで、二人はこんな目に遭ったんだから。だけど二人は俺のことを責めなかった。それどころか、「守ってくれてありがとう」ってお礼を言われたんだ。


 二人はしっかり寄り添って、お互いの手を握っていた。まるで二人で一人だと言うみたいに。魔力を通わせた二人は、かたい絆で結ばれると言う。二人もそうなんだろう。


 ノアの為に、ミカエルの為に、俺に何が出来るだろう。…あの父様がいる限り、二人の幸せを邪魔しようとするかもしれない。なら、俺のするべきことは。


 俺は微笑み合う二人を見て、心に誓った。


 _____やっぱり、人形に心が無いというのは、嘘だと思う。だって、こんなに優しいミカエルに心が無いなんて、有り得ないから。

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