第13話

「ったりめぇだろ」


 落とされた言葉と共に、握られた手に痛いぐらいの力が加わる。


 振り返ったそこに、鋭い刃のような黒が私を見下ろしていた。


「自分犠牲にして、他人騙して、それで守れるもんなんざ、在るわけねぇだろ」


「帝」


「ちょっと、そんな言い方ないんじゃない」


 反論しようとする統馬と茜に構わず、殺気さえ感じる視線は私だけを捕えて放さない。


「正面から向き合いもしねえで逃げたお前に、あの女が救えるとでも思ってたのか?」


 呆れたと云うように、莫迦にしたように諭す言葉とは裏腹に、優しく眇められた眼は穏やかで。


「守りてぇもんがあんなら、自分てめぇ自身が傷付いても構わないってのは、間違ってもねぇ。

ただお前は、守り方を間違えた」


 延ばされた手が、頬を包む。

 いつの間にかグラスを置いていた手は、まだひんやりと冷たかった。


「本当に守りてぇんなら、例え誰を傷付けようと――それが、守りてぇ奴であったとしても、他人を傷付ける覚悟をしろ」


「・・・」


 “あぁ、そうか” と、納得する。反論の言葉すら浮かばない帝の言は、重く鋭く的確に私の心に突き刺さる。


 厳しく、厳格で、残酷なまでに正しい真理。

 それを心の何処かで知っていながら、選べなかった愚かで臆病な私。


「お前には、その覚悟がなかった。だから、お前は間違ってた」


 過ちを否定するのは簡単で、それを肯定するのは難しい。


 非情だと言われかねないその高潔で潔癖なまでの優しさに、

 私を真っ直ぐ見詰めるその瞳に、その存在に、

 私はきっと 一生叶わないだろう。


「ごめんなさい」


 零れた謝罪に、帝の詰問が飛ぶ。


「それは、何に対する謝罪だ?」


「私が、あの娘と向き合わなか――」


「違う」


「・・・私が璃依だって――」


「違う」


 言葉の途中で否定する帝に、私は小首を傾げた。

 暫く考える私に溜息を吐くと、後頭部に回った手に引き寄せられるまま、距離が縮まる。


「お前が謝罪すべきは、お前がお前の言葉を殺したことだけだ」


 額をくっ付けて、幼子に言い聞かせるような帝の眼は、これ以上ないほど真剣で。


「いいか、璃依?

お前に殺して良い声は、

喘ぎ声一つ存在しねぇ」


 艶やかなヴァリトンと唇を掠める吐息に、こくりと喉が上下した。

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