page9:ドキドキのお泊まり②

9-1

 帰るという葵を何も考えず引き留めたそら


 その言葉に葵は目を見開くと、すぐにニッコリと笑う。


「赤音さん、本当にそれ無自覚ですか?」


 その笑顔に天の胸は高鳴るも必死に落ち着かせようとする。何かやはりまずい発言をしているのかと落ち着いて考えてみるが、思い当たらない。


「……あ……えっと……」


 天が言葉に詰まっていると葵がさらに続けた。


「……赤音さん、この家には赤音さんしかいないんですから。いくら何でも隙がありすぎですよ?」


「だって……」



 葵は天をソファの背もたれに押し付け、上から見下ろした。


「……安岐くん?」


 葵の行動に戸惑う天だったが、彼の真剣な表情にドキッとする。そして彼はゆっくりと顔を近づけてきたので、思わず目を瞑る。だがその感触はなく代わりに耳元で囁かれた。


「俺じゃなかったら襲われてますよ?」


 そんな葵の言葉に天は思わず目を開けて彼を見る。そこにはいつもの優しい笑顔があった。


「冗談です……ではまた学校で」


「や、待って……」


 天は反射的に葵の服を掴む。自分でも何故そんな行動をとったのかわからない。けれど今葵に帰って欲しくないのは正直な気持ちだった。


「本当に、帰っちゃうの?」


「赤音さん……それ、わざとやってますよね?」


「え?何が?」


 天は無自覚だが葵は苦虫を噛み潰したような顔をする。それをみた天は不安になり眉を下げて懇願するように葵を見た。


「……駄目……なの?」


「……」


 葵はしばらく無言でいたが、やがて大きく息を吐いてから諦めたように言った。


「わかりました。一晩だけお邪魔します」


 そんな葵に天は満面の笑みで感謝したのだった。そんな天をみてまたため息を吐く葵であった。

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