2-2

 笑われたことに少しムッとして思わず何か言い返そうとしたが、結局何も言えない天であった。心の中ではスラスラと言葉が呪文のように出てくるのになと思いながら、葵についていく。


「ここで座って見ていてください。ああ、足は崩していいですよ」


「あ、はい……」


 天は言われた通りに床に座る。もちろん正座だ。こんなところでリラックスなんかできるわけない。なにしろ葵1人なのかと思っていたのに、今日は他の部員がいた。騙されたと天は若干葵を恨む。そんなの顔には出さないが。


 部員がチラチラとこちらを見ている、その視線が居心地が悪い。ネタの為とはいえ、さっさと帰りたいと天は思ったが仕方なくそのまま葵の稽古を見学する。やはり葵は剣道が上手いらしく、他の部員とは明らかに動きが違うのがわかる。


 しかしそれ以上に、葵の一つ一つの動きの美しさに目を奪われる。無駄のない動き。まるで剣舞でもしているかのような美しい立ち姿。思わず見惚れてしまう。


 ーー目が、逸らせない。


「かっこいい……」


 そんな声が漏れたことなど天は気づかず。しかし葵には聞こえていたのか、天の声に目を見開く。


 そんな葵の態度に天は自分の失態に気づいた。


「ちがっ、その……今のは、その……」


「ふふ、赤音さん。そんなに慌てなくても」


「いや、あの……えっと、あ!安岐くんの剣さばきが綺麗で思わず!」


 天は必死に言い訳をするが葵はクスクスと笑うばかり。そんな2人のやり取りに周りの部員もざわめく。しかし天はそれに気づかないし、葵は気にしていない。そして葵は少し考えてから口を開いた。


「じゃあ……もっと、見ていいですよ」


「はい?いや、その……えぇ?」

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