1-6

 葵はそう言ってクスクスと笑う。やっぱり笑っている顔は可愛いと天は思う。こうやってゆっくり話してみれば物腰が柔らかくてなんだか落ち着くし、優しく包み込んでくれる。


 なんだ?この男は?完璧超人なのか?なんだこの恋愛小説のイケメン枠にいそうなキャラ設定は、ネタにしてやる。天がそんなことを考えていると、今度は葵が天に問う。


「赤音さんは、剣道に興味がおありでしたか?」


「……え?私?……あー……えっと……」


 まさか自分がネタ探しのために覗き見していたなんて言えるわけもなく、天は言葉を濁す。そんな天の態度に葵は何かを察したように、ああ!と声をあげた。


「もしかして、文芸部の方ですか?」


「あ、うん」


「やっぱり!」


「え?」


 なんでわかるの?と首を傾げる天に葵はクスッと笑って答える。


「活動の一環として校内散策をして部活動やクラスで駄弁っている人を観察している人がいるって噂を聞いて」


 天はそれを聞いて恥ずかしくなった。まさか自分の行動が噂になっているとは、しかも葵は知ってる人だし……。天の顔が少し赤くなるのをみた葵はまたクスクスと笑った。


「すみません、笑うつもりはなかったんですが」


「……いえ、こちらこそお恥ずかしいところを……」


「そんなことないですよ。真剣に部活動をされてるんですから。赤音さんは恥ずかしがり屋ですね」


 そう言って葵は駅に着くまで他愛もない話をしてくれた。天はその時間がとても楽しくて、ずっと続けばいいと思った。しかし時間は無情にも進むもので、もう駅についてしまった。改札口は目の前である。


「……送ってくれてありがとう。それじゃあ」


 天がそう言って改札に向かおうとしたその時。葵は天の背に声をかける。


「また、道場にいらしてくださいね」


 その声は穏やかで、天は思わずキュンとしそうになった。


「ん?赤音さん?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る