番外編 冬の贈り物~Happy Christmas♡~②



「はぁ……アラタさんの顔はしょっちゅう見てるのになぁ……」


 見たい顔はこれじゃないんだけどなぁ……と呟く光に、アラタは「ヒカルって何気に失礼よな」と眉を寄せた。


「同じドラマのレギュラーキャストで出てますからねぇ。そりゃぁ殆ど毎日顔合わせますよねぇ」


 アラタの嫌味も全く意に介せず、「あーあ、アラタさんが咲だったらいいのに」とボヤいてアラタは台本でとりあえず光の後頭部を一発殴った。その様子だと結局、咲太郎とは会えずじまいなのかと尋ねるアラタに、光は先日のオンラインでの会話の内容をアラタに話した。アラタは「へぇ~!」と感心する。


「咲ちゃんって大人ぁ! えー、ヒカルより三つ下だろ? お前よりよっぽどしっかりしてんじゃん」


 年上のヒカルくんは会いたい会いたいって泣き言ばーっか言ってんのにねえ、と笑われて光は口をへの字に曲げた。いい男が台無しである。


 どれだけスマホでスケジュールを眺めても、予定は全て埋まっていて悲しくなる。今年はクリスマス自体が平日だから、たとえ光の予定が空いたとしても学生の咲太郎が無理だろう。


 咲太郎が時間が取れそうな土日は、光がみっちり仕事が入っている。


「あれ」


 クリスマス直前の土曜日の予定を何気なく見返して、ふいにあることに気づく。


 (――この日、仕事入ってるから諦めてたけど……よく見たら夕方のトークショー終わったら時間空くんじゃ……)


 その日は夕方からスカイツリーエントランス前でのトークショーに出演予定で、終わってから別室で雑誌の取材があり、八時には直帰できる予定になっていた。


 ちょうど今の時期、スカイツリーはクリスマス色にイルミネーションが点灯されていて、少し人は多いかもしれないが、自分達は男同士なので一緒にいても距離さえ気をつければ週刊誌にすっぱ抜かれることもない。土曜日なら次の日は休みだし、咲太郎も夜の短い間だけなら普通にデートが出来るのではないだろうか? 帰りはタクシーで送ればいい。


 先ほどまで不貞腐れていた光は、目を輝かせるとスマホのメッセージアプリのアイコンをタップした。



*****  *****

 


 窓から見える景色が気づけばすっかり暗くなっていて、スマホの時間を確認すると現在17時25分。咲太郎は持ってきていたノートをディバックに戻すと、本棚から持ってきた資料を返して図書館から出た。



 先日、光から土曜日の仕事後に会えないかと連絡が来た。

 なんでもスカイツリーでトークショーの仕事が入っているから、その後そのままスカイツリーのイルミネーションを見に行こうとの事だった。


 クリスマス前の休日なんて人が多いし、そんな人目に付くところで一緒に行動しても大丈夫なのかと不安に思ったが、誰かに見つかっても「友人です」と通せば大丈夫だろうと言われた。確かに、同性ならば端からみれば友人同士に見える。


 光には仕事が終わる八時頃にスカイツリーで待ち合わせようと言われたが、咲太郎は十五時頃から浅草にある区立図書館で勉強をし、光のトークショーが始まる頃にスカイツリーに向かった。


 トークショーは事前に抽選で当たった人が座席に座れるらしいのだが、スカイツリー下のオープンな広場で行われる為、抽選に当たらなくても姿は見えるのだとか。目の前で仕事を実際にしている光をまともに見たことがない咲太郎はちょっと興味があった。遠目で光の仕事ぶりを眺めて、後は待ち合わせまでカフェで夕飯がてら時間を潰せばいい。


 東京に住む者として、スカイツリーはもう風景の一部であったけれど、ここへ来るまでの道のりをこんなにワクワクしながら来る日が来るなんて思っても見なかった。電車の車窓から見えたツリーは、普段とは違う緑の光を放っている。あんなにデカイツリーの下にも、サンタは来るんだろうかなんて、取り留めのないことを考えて咲太郎は密かに笑った。





 スカイツリーの下は既に沢山の人で溢れていた。

 暗がりの中で光るイルミネーションが冬のツンとした空気の中でより煌めいている気がする。広場ではクリスマスマーケットなんかもやっていて、行き交う人の顔は皆幸せに満ちて、寒いはずなのにあまり寒さを感じないのはきっと自分だけじゃない。


「でっか……」


 そんな中、咲太郎は会場に設置されている大きなクリスマスツリーを一人で眺めていた。カップルだらけの会場で少し気まずさも感じながらツリーの輝きに目を細める。そのうちイベントのアナウンスがかかり、司会の紹介の言葉の後にわあっと歓声が上がって咲太郎は光が壇上に登場したのがわかった。

 抽選で選ばれた人達は壇上の前に設置された椅子席に着席していたから、観覧席の周りに貼られたロープの外側からでも割とよく壇上の様子が見ることが出来た。それは壇上の光から見ても同じだったらしく、登壇後会場をぐるりと何気なく見渡して目ざとく咲太郎に気が付き、一瞬微かに驚いた顔をした。

 誰にも解らないレベルで小さく手を振る。込み上げてきたなんとも言えない多幸感に、光が口元を密かに歪めたのが咲太朗には解った。


 久しぶりに会った光はシルバーグレイのスーツに身を包み、髪の毛を片側だけオールバックにした格好で、咲太朗の知っている学生服の光はもうそこにはいなかった。壇上の上にはスポットが当たっていて、確かにそこはライトで光っていたのだが、それとは別のオーラがそこにはあった。トークショーの内容なんて殆ど耳には入ってこなくて、ただ司会者の問に答える仕事中の光の表情から目が離せず、会場に流れるクリスマスミュージックと自分の心臓の音だけが耳に響いていた。





 壇上に上がり何気なく会場を見渡した光は一瞬息が止まった。広場には沢山の人がいたけれど、見間違うはずもない夢にまで見た人が人混みの中に立っていたからだ。

 彼は光が彼に気がついたのが解ったらしく、こちらに小さく手を振った。


(かっ……わ)


 思わず色々と表情が崩れそうになって慌ててポーカーフェイスを装う。咲太朗は学生らしい紺色のダッフルコートに、クリスマスカラー色のチェックのマフラーをしていた。


(なにその可愛いコーデ)


 約束していたのは八時のはずなのに、勉強に忙しくて人混みの苦手な咲太朗がまさかこんなに早く会場にいるとは思わなかった。ここ最近、休日は殆ど勉強時間に当てている彼だから、この時間に家を出てきてくれたその理由を考えると口元が緩みそうになる。トークショーの内容はこの時期に合わせたクリスマスの過ごし方だとか、休日の過ごし方であったが、光は目の前の咲太郎と早く休日を過ごしたい。軽快に喋りながら、光はトークの内容なんて殆ど覚えていなかった。



 トークショーを終え、雑誌取材のためにそのまま建物に入る。この衣装のまま数枚雑誌用に写真を撮って番宣もかねてインタビューに答えるのだ。

 だが、指定された部屋に行って光は困惑した。


「えっ?」


 そこには平身低頭のスタッフの姿。


「すみません! 二階堂さん! ……今取材スタッフがこちらに向かっているのですが、途中で事故があったらしくて……渋滞に巻き込まれてまだ到着してないんです」


 一時間以内には着けますから……と頭を下げられる。時計は十九時半を差していた。雑誌社の到着を待って取材を受ければ確実に二十一時を超えてしまうだろう。そうなれば咲太郎を寒空の下三時間以上も待たせてしまうことになるし、高校生の彼をそんな遅くまで一人にしておくわけにはいかなかった。ただ、こちらに非がないとは言え、仕事をドタキャンするわけにもいかない。


「わか……りました」


 光はなんとかそう声を絞り出すと、断腸の思いで咲太郎に予定のキャンセルの連絡をメッセージで送った。



【つづく】


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