第84話
足を止めて振り返る。
はっとしたように、今度は長谷川が自分の口に手を当てていた。
「ご、ごめっ、かってに名前…」
「…………何?」
「あ…」
じっと見つめて待つ。
それなのに、長谷川は何も答えない。
ただ、じっと見返す俺を見て、今度は嬉しそうに、それなのに苦しそうに涙を溢れさせた。
「…っ、……なぁ、ほーちゃん。
…もう、いいだろ?」
「うんっ。もう十分、…っ」
「………何の話?」
章弘は、苦笑を浮かべるだけだった。
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