第165話



〜・〜




「(………ぅ…)」






「璃久ちゃん!せ、先生呼ばなきゃ!

璃久ちゃんっ、璃久ちゃん起きたわっ!」


「おい、落ち着け。そこにあるボタン押せば来るだろ」


「あっ、そっ、そうだよね…」






なん、だ…?


ここは、どこ…。






うっすらと目を開けて真っ先に見えたのは、真っ白な天井だった。


それと、ぶら下がる点滴パック見える。





点滴から繋がれているチューブを視線で追うと、自分の左腕に繋がっていた。






……って、…は?


病院?

なんで点滴?







「失礼しますよ〜?」



カーテンが開き、優しそうな老人が入ってきた。



近くに座っていたらしい2人──誠とミツナが立ち上がって、私を診察する老人を見つめる。







「うーん…。ちょっと、過労かねぇ。

寝不足と、軽い脱水症状もあったみたいだから、点滴させてもらったよ」


「(………)」


「慣れない環境で、少しストレス溜まっちゃったのかな?

とりあえず、点滴終わったら帰っても大丈夫だよ」


「(………ありがとー、ございます)」







口パクでも、お礼を言ったのは伝わったらしい。

老人はにっこりと笑みを返してくれた。



老人が出ていくと、誠とミツナが椅子に座りなおした。





……あれ?

なんで父さんがいるんだ?






「璃久ちゃん、ごめんねっ。

私っ、気づかなくってっ…」



ポロポロと涙を流すミツナは、相当私のことを心配していたらしく、目をパンパンに腫らしていた。




ずっと泣いていたのだろう。





「大丈夫か?突然倒れたって聞いたぞ。

お前は人を頼らなすぎだ」


「(………たお、れた…)」


「とりあえず、お前のこと心配してるガキの家に連絡入れてくる。

……ミツナ。お前のせいじゃなくて、こいつが言わなかっただけだ。気に病むな」






誠はミツナの頭をくしゃりとなで、部屋を出て行った。



私は起き上がろうと、上体を少し持ち上げた…ところで、ふとあることに気づいた。





点滴をしていない右腕で、私、何か抱きしめてた…?







視線を落とすと、それは黒いパーカーだった。

私が右手でぎゅっと掴み、抱きしめていたのはその袖部分のようだ。







……なんで、こんなもの抱きしめてたんだ?










「璃久っちゃんっ。

もっ、2日も寝てたからっ、…ほん、とにっ、

よがっだぁ…っ」


「(…ふつ、か?……そんなに…)」






気づかなかった。


まさかそんなに眠っていたなんて…。







でも確かに体が楽な気がした。

ひさびさに体が軽い。







ゆっくり手を伸ばし、いまだ泣き続けるミツナの手を両手で包んだ。








「ごめっ、ごめんねぇっ。

ごめんねっ、璃久ちゃん…っ」


「(………)」






私は首を横にふり、ミツナの目尻から溢れる涙を拭った。




それからミツナの体に腕を伸ばし、抱き寄せる。






それと同時に、ミツナが声を上げて泣き始めた。





個室だったから、私はそれを止めなかった。














申し訳ないことをしてしまった。


それに、こんなに心配をかけるなんて。







思ってなかった。












ポンポンと背中をさすると、ミツナが私の背中に腕を回してきた。


離したくないと、私の背中をその両手でしっかりと搔き抱いてくる。







「ごめんねぇっ…ごめんねっ……。

ごめんねぇ…っ」














泣きすぎて、疲れて眠ってしまうまで。




ミツナの涙は止まらなかった。






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