第125話


〜・〜


璃久side





木田と開理、数人の組員とともにルナの日本支部に戻った。


残った組員たちは、私とアズサが監禁されていたビルを調べてから戻ってくるらしい。




私はここについてすぐ、とりあえずシャワーを浴びて借りた服を身につけた。


それから少し栄養失調気味だと言われ、点滴をしている。


チューブが伸びた自分の左腕を見ると、なんだか不思議な気分だ。







「…………璃久」


「(……………)」


「…………声、やっぱ出ないのか?」





木田が気だるげに椅子に座り、ぼんやりとした表情で私に尋ねた。



ちなみに、私は医務室らしきベッドの上で横になっている。








木田の問いに、私は頷いて答えた。






「いつからだ」





そう言いながら、木田は私に手帳とペンを貸してくれる。


私はそこに返事を書き込んだ。




『よく覚えてない』


「出ない理由で思いつくのはあるか?」


『ない』


「そうか。

………筆談じゃ不便だな。手話覚えろ」


『わかった』





実際の会話とは違い、書く時間もかかる。

簡潔に答えるのがいいだろう。


その分文面がサバサバしてしまうが…。


それに…。







私は手帳の文字を見つめた。









私は、嘘ばっかりだな…。













苦笑が漏れる。



なんで私は嘘なんてついたんだろう。

本気で心配してくれている相手に失礼だ。








………わかっている。



でも、"幸架に声を潰された"なんて言いたくない。

もう治っているのも確かだし、出ないのは他の原因だ。




………そう、他の原因に違いない。






「もうすでに引き受けてた仕事はないのか?」


『全部幸架がやったはず』


「なら問題ないな。

その状態じゃ仕事できねぇだろ。休め」


『うん』





筆談では簡単な短文しか書けない。

長文では時間がかかるからだ。



いつもよりそっけない返事ばかりが手帳に並ぶ。



なぜか、とても寂しくなった。





木田と開理が何か話し合っているようだった。


何も言えない。

会話に混ざれない。



口を開き、"あ、あ、"と声を出そうとした。




でもやはり、出るのは息の漏れる音だけだった。






仕方ない。


私は再びペンを持ち、木田の手帳の最後のページを切り取り、書き込んだ。



それをもって、チラリと木田と開理の方を見る。

話に集中していてこちらには意識が向いていない。




それを確認し、近くにいた組員をこっそり手招きする。


それに気づいた組員が、戸惑いながらもこっちに来てくれた。





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