第六章 06 終電
早めにベッドに入ったが、真帆は、なかなか寝付けなった。
自身の健康問題は、解決した。
だが、依然として佳乃と笹川の居所が掴めない。
笹川の育ての親、蔵吉昭三は、カトリック教徒だった。
佳乃は、修道院で出産している。
――もし、私が佳乃先生の立場だったら、どうするだろう?
真帆は、死産した娘を思った。
娘が無事に成長したと仮定する。もし、罪を犯したら?
最初は、匿うかもしれない。だが、繰り返すようなら?
精神疾患を疑うだろう。
親として、できる事柄は?
罪を償わせても、また繰り返したら?
その場にならないと、行動心理は解らない。だが、犯罪事例では、統計的に多い例がある。
――我が子を、亡き者にする。
それが、自身が下した判断だとしたら、何処で実行するだろう?
想い出の場所。共通点のある場所。原点か?
原点だと仮定すると、佳乃の場合なら、宝塚の修道院だ。だが、シスターたちの目がある。
――他には?
「ある!」と、真帆は閃くと、ベッドから起き上がった。
今の時間帯なら無人だ。教会なら、鍵が開いている可能性がある。
真帆は、部屋の電気を点けた。壁時計を見ると、十一時過ぎだ。
スマホの乗り換えアプリをタップする。
姫路方面の終電は、二十三時四十六分。姫路には一時六分に到着する。深夜なので新快速は、走っていない。
真帆は、穴瀬に連絡すると、西宮駅に急いだ。
岸田を頼ろうと考えたが、巻き込みたくなかった。
寒空の中、真帆は、駅に向かって走った。
真帆の願いが通じたのか、終電より一本前の快速電車に滑り込めた。車内は、通勤ラッシュほどの混雑では、ない。だが、座席は全て埋まっていた。
車両の隅に立つと、真帆は、車両間のドアに凭れ掛かった。夜の車窓を眺めながら、昼間に見た、年老いたシェパードを思い返した。
犬の世話は、誰がしているのだろう? 犬の様子から、大切に飼われていると思えた。衛生面から、病院のスタッフが世話をしているとは思えない。
墓地の回りも、手入れが施されていた。教会には、墓地が付き物だ。だが、学校の教会に墓地は、ない。
修道院はどうだろうか?
電車が三ノ宮駅に到着すると、真帆の前の席が空いた。座席に座ると、真帆は考察を続けた。
宝塚の修道院は、山奥だと倫子が話していた。真帆は、存在自体、知らなかった。公共交通機関が通っていない場所だと思える。
その修道院の敷地内に、昼間のシェパードを放したら、沙羅がいるように思えた。記憶がなくても、良い。生きて見つかってほしいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます