20 奇妙な笑い方をする少女

 牢の前を通過したネズミが自動小銃付き監視カメラに発見され、はちの巣にされてしまった。


「(うわ……あれをどうにかしないといけないのね……)」


 私は小銃を構え、撃って壊そうとした。


「待って! 壊したら兵士が集まってくるわ!」

「(じゃあどうしたらいいの?)」

「どこかにある電源施設を破壊するしかないわね」

「(どこにあるの?)」

「うーんと……」


 どうやら夢羽は、電源施設を探し始めたようだ。


 てか、こんな所に監視カメラがあるくらいだから、電源施設にもあるよな……。ここの方が、そこでバレるよりはいいかもしれないな。


 そう思い、夢羽からの返事を待っている間に、私は兵士から盗んだ煙幕を遠くに投げた。

 爆発して煙幕が発生し始めると、監視カメラがそっちを気にしだし、カメラが固定された。

 そして、煙幕に向かって乱射し始めた。


「(よし今だ)」

「あたしが探している間に何してるのよ」

「(煙幕を投げただけだよ。)よし開けたよ! こっちに来て!」


 2つの牢の鍵をピッキングで開け、局員2人の腕を掴んだ。

 そして、自分の近くにも煙幕を張り、2人をカメラの死角まで引っ張った。

 監視カメラは狂ったように乱射しだした。


「ありがとう。助かったよ」

「これで、あの訳が分からない労働から解放されるんだね!」


 2人共大人の局員で、1人は女の人で、もう1人は中性だった。


「逃げる途中でまた捕まらなければですけどね……はい、これのどれかがご自身のカバンだと思います」


 私は3つのカバンを出した。

 それぞれ、自分のカバンと思われる物を取り、そのポケットから例の如く配達予定の手紙を取り出した。


「あ、それとこれも受け取ってください!」


 女の人から、携帯食料を受け取った。


「食べ物! ありがたいです」


 それをカバンに入れる。


「僕からはこれを……」

「……これは?」


 なぜかサバイバルナイフを渡された。


「僕の師匠から譲り受けた物です」

「え? 大事な物じゃないの?」

「いえ、僕はもう必要ないですから……」

「そうですか……ありがたくいただきますね」


 ナイフホルスターも一緒だったので、早速右脇の方に装着した。


「囚人の脱獄だ! 煙を払え!」


 どうやら兵士が集まってきたようだ。


「それじゃ、僕達は行きます」

「ありがとうございました」


 2人の局員はペコリと頭を下げ、そして端末を取り出してそれを見ながら走って行った。


「(なんで端末見ながら走っていくんだろ……)」

「開いているの、地図みたいよ」

「(え? 地図あるの?)」


 端末を開いたが、それらしき物はない。


「ほら、あるじゃないの。マッピング機能よ」

「(そんな機能あるの!? ……起動すらしてない)」

「夢の世界は迷子になりやすいからね。歩いた所を自動で記録する便利なアプリらしいよ」

「(そんなの教えてくれなかったんだけど……)」

「まあ、忙しい身だからね……気にしないであげて」


 端末をカバンにしまう。


「(まあいいや……まずはここから離れないとね)」

「すぐ近くまで来てるよ。ほんと、無茶しちゃって……」


 それを聞き、離れるために適当に歩き始める。


「(ごめんごめん。電源設備を壊したらカメラも止まるんだったら、そこにも同じようなカメラが設置されてないかなって思ってね)」

「あ……失念していたわ。たしかにあるわね……しかも2台」

「(ここより厳重だな……まあ、終わったし最後の局員はどこ?」

「うーんとね……」


 夢羽は再び探し始めた。

 私はその間に、貰ったナイフの確認をした。


「思ったより長いな……でも扱いやすいかも」


 右脇のホルスターから抜刀して、一振りした。


「さすが風羽ね。器用だわ」

「(いや、器用では普通こんな事できないからね。何かしらの理由がありそうだけど……特別な力とか?)」

「いずれわかる時が来るわ……風羽は器用だからね」

「……」


 私はナイフをホルスターにしまう。


「(それで? 最後の局員はどこ?)」

「あの交差点を左に曲がって、ひたすら真っ直ぐよ」

「(りょーかい)」


 最初の交差点を左に曲がり、そして進んでいると


「待って! そこの左から兵士が2人。対処して!」

「(そんな簡単に言わないで……よ!)」


 左から出てきた兵士の足を蹴り、うつ伏せに転ぼうとしていた所、顎に小銃のストックを当てた。

 転んだ勢いでストックに顔をぶつけた兵士は、そのまま気絶したようでピクピクと動いている。

 そして1人目が倒れたので、2人目も1人目に引っかかり、そのまま倒れて気絶したようだ。


「風羽、銃使うより棒使った方がよくない?」

「(発泡したらバレるでしょ。それに、人の形をした者に撃つのは抵抗あるんだよ……」

「あーなんかわかる気がする」


 1人目と2人目の兵士から物資を抜き取り、カバンに入れる。


「(さて、そろそろ着くんじゃない?)」

「うん、そうだね。あ、ここにも監視カメラあるから気をつけて」

「(はいはい……)」


 私は局員が閉じ込められていそうな牢を見る。


「……は?」


 監視カメラは破壊されており、そして1番の驚きは、牢が何かでぶった切られた後があったことだ。


「……風羽。つくちゃんをナイフに移動させて」


 夢羽の真剣そうな声を聞き、私はリュックを下ろし、そこからつくちゃんを呼んだ。

 そして、サバイバルナイフを見せて、ここに移動できるか聞くと、すごく嬉しそうにしながら移動してくれた。

 ナイフをまたホルスターに戻した。


「(……一体何がこれをやったの?)」

「こんな芸当できるのは、普通の局員ではないよ」

「(あ……局員なのは確定なんだ)」

「うん。おそらく……」


 夢羽が何かを言いかけると、


「あら~? 早い到着ですね~……キキキ」


 切られた牢の中から、大きくて長い黒い板のような剣を軽々と片手で持ち、それを肩に乗せて出てきた白銀の髪の少女が出てきた。

 髪は長く、そして見たことのない形をしていた。

 服は局員の制服だが、なぜかゴスロリ風に改造されていた。

 奇妙な笑い声と共に、ギザギザの歯がチラつく。


「ヘアゴムを使って髪を縛ってるのよ。あれはツインテールね」

「(いや待って。私以外に髪の長い子、初めて見たんだけど……)」

「そうだよねー……」


 私はホルスターに入れてあるナイフを左手で握り、目の前の少女を警戒する。


「そんなに警戒しなくてもいいわよ~? お話しましょう~? って言っても、話す余地は無さそうね~キキキ」


 銀髪の少女は、背丈より大きい黒い剣をブンブンと振り回した。

 すると、周囲の鉄格子の牢がいとも容易く切れ、金属音が鳴り響いた。


わたくしは、アイリス・ネフィリアよ~」

「私はムウ!」


 アイリスは、大きな黒い剣を私に振り下ろす。

 私はそれをナイフで受け流し、剣を蹴ろうとした。

 しかし


「うわ!? え? なになに!?」


 大剣を蹴ることができず、通過してしまった。

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