04 願いの成就・緑の草原の不思議な夢

 光は落ち着き、徐々に辺りが見えるようになってきた。私は目が慣れるのを待った。

 目が慣れ、目の前の夢の主を見る。

 さっきとは違い、身長が幾分か伸び、体格もガッシリした感じに変わっていた。


「おお! 変わった! ようやく僕達にも子ができたんだ! 天使様ありがとうございます!」


 夢の主も自身の変わった姿が見えるようになったようで、とても喜んでいる様子。

 光っていた手紙の光が完全に消え、その手紙に貼られていた切手が剥がれて私の所に飛んできた。

 それを取り、カバンのポケットに入れる。


「いえ……ただの郵便局員ですよ。それに、ただ配達しただけです。それより、奥さんご懐妊かいにんおめでとうございます」

「ありがとうございます!」

「それでは、失礼しますね」


 そう言い、私は泡の家から立ち去った。

 後ろで主が手を振って見送ってくれているようだ。


「終わったよ……てか、知ってるんだったら教えてくれてもいいのに」


 私はクルマの姿のままで待機していたゲンを見る。


「百聞は一見にかずって言うだろ」

「それはそうだけど……」

「遅かれ早かれ、いずれは経験することだからいいだろ」


 私はクルマに乗り込む。

 ゲンは出発し、どんどん上昇していく。


「それにしても、子を授かるための神のシステムだっけ? なんでこんな構造なの? もっとシンプルでいいのに……」

「いや、これでいいだろ。人口爆発も起きないし、望まぬ妊娠や犯罪も起きない。よい事だらけじゃん」

「うーん……」


 何かが引っかかるんだよな……子が欲しい2人に神という第三者が介入している……それって監視されている感じがして何か嫌だ……。


 そんな事を思いながら、次の手紙を取ろうとカバンを開ける。


「そろそろ飯にするか。局に戻るぞ」

「え? どこかの星で買ったり、採ったりできないの?」


 手紙を取ろうとしていた手を止める。


「できないことはないが、新人なのにいきなりハードな事したいのか?」

「いや止めておく」

「ああ、その方がいい。狩猟するための武器も無いしな」

「あ、狩猟もできるんだ」

「ああ。夢の星の中で生きる生物は狩っていい事になっている」

「狩りすぎて絶滅することはないの?」

「夢の主が疲弊するだけで、絶滅することはないな。疲弊は手紙を配達することで回復するがな」

「そんな効果もあるのね……」


 私はカバンの中の手紙を見た。


「よし着いたぞ」


 目の前に青く輝く地球の姿があった。


「いやだから速いよ……。もっとゆっくりした旅じゃないの?」

「普通のレンタカーならもうちょっと遅いかな。でも速いぞ」

「もっと星間飛行を楽しみたい人もいるんじゃ……」

「その時はクルマから降りればいい。よし、降りるぞ」


 ゲンはそう言い、地球への降下を始めた。


「たしかにそうだね……」


 私はカバンのチャックを閉め、衝撃に備えた。



---



 地球に降りた私達は、食堂で食事を済ませ、店で軽食などを購入した。


「あ、そういや、配達終わったらそこの銀行行けよ。配達報酬が振り込まれるからな」


 ゲンが食堂の隣にある銀行を指した。

 その入口にすごい行列ができているのを見て、私は唖然とし、小さくため息を漏らす。


「気持ちはわかる。この辺りのシステムを見直す予定らしいから、もう少し待っててくれ」

「そうなんだ。ちなみに、誰がこのシステム作ってるの? さっきの店も自動でレジ打ちとかしていたよね」


 お店のレジに大きなゲートがあり、そこを通るだけで商品がスキャンされ、合計金額が出るという仕組みになっていた。

 支払いはなぜか現金のみだが。


「土の神だ。創造物の管理をしていて、それを元にこの死後の世界のシステムも構築しているな」

「すごいね。アナログな部分もあるけど、未来的な物も多いから不便さをあまり感じないよ」

「まあなー……それじゃ、後はムウ1人で頑張りなー」


 そう言って手を振り立ち去ろうとした。


「ちょっちょっと! 肝心な事聞いてないよ!」


 私はゲンを制する。


「他に何かあったっけ?」


 ゲンは首を傾げる。


「私達局員ってずっと配達しているの? 休み無し?」

「違うわ! ブラック企業じゃないし、何なら自分のペースで働けるホワイトな企業だ。まあ、働かなかったらお金貰えないがな。あ、そういえば、これも渡し忘れてたな。ほれ」


 ゲンは自身のカバンの中から、1つの板のような物を取り出した。


「これって……ス」

「端末な」


 ス○ホと言おうとしたら口を塞がれてしまった。

 私は口を塞いでいる手を振り解く。


「いやどう見たってアレだよね」

「ああ。アレを元にして改良を加えた次世代機と言ってたな」

「土の神?」

「ああ。だから、ムウが言おうとしていた物ではない。あくまでも次世代機だ」


 そう言い、ス○ホによく似た端末を受け取った。


「……それで、これは何に使うの?」

「使い方は現世と同じだ。ただ、それに個人情報が載ってるから、住居の位置情報も載ってるから、休みたかったらそれを見ながら行ってくれ」

「そうなんだ! その個人情報に私の生前の情報も載っていたりする?」

「うーん……どうだったかな。見てみるといい。これから会議があるからもう行くぞ。じゃあな」


 そう言い、ゲンは脚をキャタピラに変え、猛ダッシュでこの場を去った。


「置いていかれた感……端末を見ろ……ね」


 私は端末をタップした。


「うわ! ……全然アプリ入ってないじゃん……電話とアドレス帳と、メッセージと地図と……何だろこれ? テスト中って書かれてるな」


 私はテスト中と書かれたアプリをタップする。しかし、反応がない。


「……うん、テスト中なのね。さて、私の情報はどこかな? アドレス帳かな」


 アドレス帳を開くと、ゲンの名前だけポツンとあり、あとは自分という名前もあった。


「これかな。どれどれー」


 「自分」をタップすると、自分の電話番号と名前と住所が載っていた。他の情報はなかった。


「これだけかー……今日は何だか色んなことがあったし、疲れたから帰るか」


 住所をタップすると地図のアプリが開き、座標にピンを挿してくれた。


「ここに行けばいいのね。地図で見ると色んな店があるんだね……うーん……今日は止めておこう」


 私は住居までのナビを設定し、住宅街へと入っていった。



---



「家もでかいな……マンションか。私の部屋は……あれだね」


 住居はマンション型だったようで、そこの中間あたりに私の部屋が設けられていた。

 エレベーターを使い、自分の部屋のある階まで上がった。そして、部屋へと入った。


「……おー……至れり尽くせり……」


 居住に必要な家具や家電は全部揃っていて、快適空間になっていた。

 さすがに食料系はないが、今日はもう済ませたので問題ない。

 私は制服から購入した私服に着替え、ベッドに飛び込み横になった。

 横になった瞬間、意識が落ちていく感じがした。



---



「……あれ? 何で私こんな所に?」


 私はこの世界に来た時に最初に見た、一面緑の大草原の中に立っていた。


「……こっちだよ」


 突然私が向いている方角から、声が聞こえた。


「誰?」


 私は声が聞こえた方角へと歩いた。

 ひたすら真っ直ぐ進む。すると


「……こっちだよ」

「うわ! ……いきなり出ないでよ、もう……前にもこんな事あったような……」


 目の前に、急に両開きの扉だけが現れた。私は扉に近づく。


「建物無いし、ドアを開けなくても反対側見れちゃうし……うーん……とりあえず開けるか」


 扉を押したり引いたりして、開くかどうか試してみた。すると


「お、開いた。うわ……階段……」


 空へ続いているんじゃないか、と思うほど先の見えない階段が目の前に現れた。


「……こっちだよ」

「これ登るんか……頑張るか……」


 そう呟き、階段に足を置いた。その時、


「うわわ!? 動いた!! エスカレーターだったのか!」


 階段がひとりでに動き出した。機械仕掛けは無いが、勝手に上へと運んでくれている。

 エスカレーターに乗って数分経った。

 さっきの扉も見えない程、高い所まで来たようだ。


「楽ではあるけど……暇になってきたよ」


 まだ終点が見えてこない。

 またしばらく経った。


「……これ夢だよね? 夢って自覚できる夢? ……暇な夢ってあったっけ?」


 私は首を傾げる。


「ん? なんか目の前がモヤモヤしている……雲かな? このまま乗ってたら入っちゃうんだけど……」


 白い雲らしき物が目の前に現れ、エレベーターがそれを突き抜けている。そして、そのまま乗っていた私は、雲の中へと入った。


「…………何も見えない」


 辺り一面真っ白で、目の前が全く見えない。

 少し経ち、エスカレーターは雲を抜けた。そこには


「お! 終点だ!」


 私は嬉しくなり、エスカレーターを駆け上がった。


「到着! ……あれ? 私、空に上がってたよね?」


 目の前には、エスカレーターに乗る前と同じ、一面緑の大草原があった。そして


「あ、扉だ」

「……こっちだよ」


 病院にありそうな、横にスライドするタイプの扉がそこにあった。

 その扉の中から声が聞こえる。


「うん、今開けるよ」


 私は扉の取手を掴み、スライドして開いた。

 中に入ると、そこは部屋とは言えないさっきと同じような草原の空間になっていて、その中にベッドが1つぽつんと置かれていた。

 ベッドの横には窓もあった。

 私はそのベッドに近づく。

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