六花の薔薇

リデルガ③

「…………」

大きな窓から朝の光が入り込む。

御影は目を覚ますと身体はびっしょりと汗まみれだった。変な夢でもみたんだなと覚えてないけどただ目覚めが悪いから分かった。

コンコン！コンコン！

「御影（みかげ）様！すみません！」

部屋の扉を叩き、使用人の声が聞こえる。

えらく慌てている様子だ。

御影（みかげ）は自室の扉を開ける。

「おはようございます、御影（みかげ）様。あの、翼（つばさ）様が…」

その言葉を聞いて直ぐに自室を出て、小走りで翼（つばさ）の部屋と向かう。

「翼（つばさ）！？」

翼（つばさ）の部屋に着くと数人の使用人が翼（つばさ）に寄り添って、背中をさすったりしていた。

当の本人はすごく苦しそうで、呼吸が上手く出来ていなかった。

必死に自分で自分の手首に爪を這わせ傷つけていた。その時 御影（みかげ）は思い出した、翼（つばさ）の言葉を。

『…言いたくない…』

－やっぱり…。

御影（みかげ）は彼女が横たわるベットに近づく。

「行っていいよ、ありがとう」

使用人にそういって出て行ってもらう。

二人きりになったところで、翼（つばさ）に声をかける。

「翼（つばさ）…もういいよ、俺がきたから我慢しなくて…」

すると翼（つばさ）は俺の方をみる。

揺らいだ真のない瞳で御影（みかげ）に手を伸ばした瞬間…

ガブッ

翼（つばさ）は勢いよく御影（みかげ）の首元に嚙みついた。

その衝撃でベットの上に倒される。

血を一生懸命吸う翼（つばさ）の頭を撫でながら、長い黒い髪に手を這わせる。

－綺麗な髪…

なんてくだらないことを思う。

ーまるで、血の味を覚えた子どもだな…

御影（みかげ）は翼（つばさ）の頭を撫でながらされるがままにじっとする。

今日の朝食は何を食べようか。

パン？それとも米？どっちにしようかなんてことを考えていると

「…御影（みかげ）…？嘘、私…」

ある程度血を飲み我に返った様子の翼（つばさ）。

「おはよう」

御影（みかげ）は挨拶して笑う。

でも彼女は笑ってくれない

「…どうして」

「ん？」

「どうして、私また御影（みかげ）の血を吸ってるの？」

「………」

「…だって、昨日飲んだばかりなのに…やだ、私…」

「そういうもんなんだよ、覚えたては」

「…覚えたて」

「血の味を覚えたばかりの頃は吸血衝動は頻繁に現れる。そのうち身体も順応していくよ」

「…おかしく…ない？」

ボソッと呟く彼女。

「…普通だよ、誰もが通る道。そうやって血の味を覚えるんだ」

御影（みかげ）は身体を起こし、横に座る翼の頭を撫でた。戸惑いを隠せない翼（つばさ）は、きっと【リアゾン】では血を我慢していたが、学校で御影（みかげ）の血を飲んだことでストッパーが外れ無意識に血を求めるようになっていた。でもそれも定期的に血を飲むことでいずれ無くなる。

俯く翼（つばさ）の顔を両手で包む込み顔を上げる。

「翼（つばさ）、これだけは約束」

「…約束？」

「俺以外の血は飲んではいけない」

「…………」

「分かった？」

「…分かった」

不安で揺れる翼（つばさ）の瞳。

彼女の中で吸血行為は自分が化け物であるということを嫌でも自覚させる行為だ。

その行為を無意識にしてしまう自分が信じられない程嫌なはず。

不安そうにする顔が御影（みかげ）にとってはたまらなかった。

－ああ、なんて言い眺めなんだろう。

御影（みかげ）はにやっと笑った。