リアゾン⑦
「落ち着いた?」
トイレの個室。
彼の言葉を聞いた時にはもう身体の熱さは消えていた。
心ここに在らずといったようにボーッと一点を見つめる
「………」
良いことを思いついたように笑う
「!?」
突然の事でびっくりしすぎて声の出ない
「ん~やっぱり自分の血の味はわかんないね」
「僕の血美味しかった?」
「…ぇ、」
「…えっと、わからない…」
もう何年も飲んでいなかった血。
「………」
「…今まで母の血しか飲んだことがなかったから、それも子どもの時以来で…」
すると
「母…子どもの時…?」
その
「母親の血を飲んだのはいつが最後?」
「…8歳」
「それ以降は…」
「誰の血も飲んでない…」
吸血種の身体的構造上、吸血種は人間との吸血行為によってしか栄養を得られない。
ある程度食事から栄養は補えるがやはり血を飲まないと栄養不足に陥り様々な病気へと発展していく。
彼女がいくらダンピールだからと言ってそれが可能なのか?もう10年近く吸血していない事になる。そんな状態で生きてこれるのか…?
そして何かを考えるように手を組む。
「吸血衝動はどうやって抑えてたの?」
「…吸血衝動?」
「さっきの君の状態が吸血衝動」
血が欲しくて堪らなくなり、身体中が熱くなって胸が苦しくなる。人によって記憶障害や自我を保つことが出来なくなり見境なく人を襲うこともある。それが吸血衝動である。
「…言いたくない…」
少し後ろめたかったのだ。
あまりにも耐え難い夜は自身を切りつけ、流れる血を啜った夜もある。
そんな事誰にも言えやしなかった。
ましてや相手は本物の吸血種だ。
吸血種からしたら信じ難いなんとも奇妙な行動だろう。
すーっと伸びる古い切り傷が目に入る。
そこで彼女が黙っている理由を察する事が出来た。
-そういう事か…
「…誰も教えてくれなかったんだね」
その言葉に
その真っ暗な瞳に吸い込まれそうになる。
ーキーンコーンカーンコーン
学校中に響き渡るチャイムの音。
その音を聴いて
「早く出て!」
チャイムが鳴ったという事は次は昼休みだ。
昼休みのトイレは女子が大勢押し寄せてくる。女子トイレに男がいる事を見られたら大騒ぎは間違いない。ましてや男の正体は【リデルガ】の吸血種で容姿の整った男。大混乱間違いなしだ。
そこまで考え
「そんなに走って大丈夫?」
その声に対しお構い無しに走る…とその瞬間視界が歪んだ。
「…ぁ」
もつれそうになる脚、体勢を崩した
「だから、言ったのに…」
すると下の階から生徒たちの声が聞こえ始めた。生徒達が廊下に出てきたのが分かった。
すると
「…ぇ?ちょっ」
「…また後で説明するよ」
その声と共に
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