第28話 秋祭の誓い
村の朝は、いつもより早くからにぎやかだった。
祭囃子の練習、山の恵みを炊き出す大鍋、染められた布で飾られた広場。
秋祭――収穫と祖霊への感謝を込めた、一年で最も大きな行事の日だった。
蒼真は白地に淡い紺の紋をあしらった礼服に袖を通していた。
かつて都で着たものより、ずっと軽く、ずっと温かかった。
茜は村の女性たちに手伝ってもらい、栗色と紅の振袖に身を包んでいた。
「……これ、本当に私でいいのかなって、何度も思っちゃう」
鏡の前で髪を整えながら、茜はぽつりと漏らす。
「私は、ただの村に来た女の子だったのに、今こうして“あなたの隣”に立つなんて……」
その背に、蒼真の声が届いた。
「“ただの女の子”なんかじゃない。
俺を支え、守り、村と向き合ってきた――俺にとっての“未来”だ」
茜は、そっと鏡越しに微笑んだ。
⸻
午後、祭の中心である神殿前の広場には、村中の人々が集まっていた。
年寄りも子どもも、装いを整え、笛や太鼓が賑やかに鳴り響いていた。
そして――その中心に、蒼真と茜が並んで立った。
蒼真は深く息を吸い、皆の前で言葉を紡ぐ。
「これまで私は、都と村の間で揺れてきました。
一族の血を背負いながらも、“誰と共に生きるか”を、問い続けてきました」
村人たちの視線が、静かに彼に注がれる。
「その答えが、今ここにあります。
私は、この村と共に歩みます。
そして――茜。君と共に、未来を築いていきたい」
茜はゆっくりと頭を下げ、そして皆に顔を上げて向き直った。
「私は、この村で出会った全てに感謝しています。
そして、蒼真くんと並んで歩くことが、私の誇りです」
すると、沈黙の後に――
「茜ちゃん!」「おめでとう!」
「若当主様、ようやく言うたな!」
「ほんに、ええ日じゃ!」
村人たちの歓声と拍手が、一斉に広がった。
笛の音が高くなり、太鼓が打ち鳴らされる。
子どもたちが花を撒き、広場には笑顔と祝福が満ちていった。
蒼真は茜の手を取り、静かに指先を絡めた。
「これで、堂々と“俺の大切な人”って言えるな」
「もう前から、皆そう思ってたと思うけど……でも、うれしい」
二人は肩を並べ、祭の中心に立った。
それは、当主と相談役という役割を超えて、
一人の男と一人の女が、生きる道を重ねていくという“誓い”だった。
⸻
夜。
祭の火が静かに燃える中、蒼真と茜は高台に座って村を見下ろしていた。
「……きれいだね。灯りが揺れて、笑い声があって、」
「これが、“守りたかった景色”なんだ」
蒼真は、そっと茜の肩に手を置いた。
「都では手に入らなかった、“確かなもの”がここにはある。
名も血も関係ない、ただ“信じ合える人たち”が、ここにはいる」
茜は肩を預け、目を閉じた。
「私も、ここでなら……ずっと笑っていられる気がする。
あなたが、そばにいてくれるから」
星が流れる。
その下で、二人の心は静かに寄り添い、未来へと続いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます