雪幻の墓標

副島桜姫

序章

雪幻せつげんの墓標


序章




「エフィ……エフィ……」


 15歳ぐらいの少年が必死に少女を揺さぶっている。


 少女は13歳ほどか。見た目よりもまず目につくのはその尋常ではない様子だ。


 激しく呼吸を荒げ、それとは裏腹に力がない。


 春の盛り、花の咲き乱れる湖のほとりで少年はただおろおろとしていた。


 ――と。


 傍の茂みが音を立てた。


 ――大人たちが事ある度に言っていた。


「時々、子連れのバイロウが出るから、子供だけで歩いてはいけませんよ」


 少年は咄嗟に持ってきていた木刀を掴む。

 こんな時になって、こんなものでは何も守れなかったと気づく。


 同時だった。


 少年がそれが人間だと気づいたのと、その出てきた人間の顔面に少年が投げつけた木刀の切っ先がクリティカルヒットしたのとは。


 ――顔面を抑えて倒れる男の顔は整っていた。

 ――きっと、顔は自慢だったのだろう。



◇◆◇◆◇


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