第25話 帝都へ
「う~ん、パーティ名かぁ」
リューゲン邸へ戻ったハイドは朝食を摂った後、自室の机に向かっていた。
固定パーティを結成するにあたってパーティの名前を登録する必要があるらしく、その名前を決めかねているのだ。
「俺に任せる、なんて言われたけど……」
ヘレネーに名前の案がないか訊ねると、「あなたに任せる。このパーティのリーダーはショウだから」と返された。
ネーミングセンスがないから考えて欲しいと頼んでも、「ショウが決めたものならなんでも嬉しい」と繰り返す。
「本当、困ったな」
手元の紙にはいくつかの案が日本語で羅列してある。
・漆黒同盟
・剣弓双軍
・終夜の影団
・夢幻破星の近衛団
「……うーん、悪くはないと思うんだけど、いまいちピンと来ないんだよなぁ」
これまで考えた名前の候補を眺めつつ、深いため息を零す。
そうしていると、部屋の扉がコンコンと叩かれた。
「はーい」
「ハイド坊ちゃま、旦那様がお呼びです」
「わかりました、今向かいます」
ハイドはパーティ名の案を書き連ねた紙を懐に仕舞いつつ、立ち上がる。
(父様からの呼び出し……何か嫌な予感がするなぁ)
執務室へ向かいながらそんなことを思うハイドだが、その予感は的中するのだった。
「急な話にはなるのだが、明日、私と共に帝都へ赴く。そのつもりでいるように」
本当に急な話にハイドは目を丸くする。
「帝都というとここから馬車で片道五日はかかりますよね? 父様ならともかく、俺もですか?」
「そうだ。確かにまだ七歳のお前を帝都へ連れて行くのは時期尚早ではある。しかし、最近のお前のめざましい剣の上達ぶりを見ていて気が変わったのだ」
「と、仰いますと?」
ドルフは革張りの椅子から立ち上がると、執務机の前へ回り込むと、ハイドの肩へ手を載せる。
「もしかしたらこの話をするとお前はプレッシャーに感じるかもしれない。しかし勘違いしないで欲しい。これはすべてお前のためなのだ」
「……あの、ですから何がですか?」
ドルフにしては珍しく、回りくどい物言いをする。
ハイドが怪訝な顔をすると、意を決したように告げた。
「――お前のスキルを視てもらう」
◆ ◆ ◆
リューゲン邸から馬車がでる。
遠征の時のような物々しい空気ではない。
護衛の騎士たちが隊を取り囲んでいるものの、穏やかなものだ。
ハイドたちが乗る馬車も、荷馬車ではなく屋根やドアがついた客車が備えられた高級馬車。
完全に人が乗るために造られた車内には二脚のソファが前後にはめ込まれている。
外装にはリューゲン家を象徴する三本の剣が交差するエンブレムもあしらわれていた。
乗り心地は荷馬車と比べるまでもない。
フカフカのソファに座りながら、しかしハイドは吐きそうになっていた。
(まずいまずいまずいまずい――!)
ドルフから聞かされた話を思い返しながら、ハイドは苦悶する。
リューゲン伯領は皇族が統治するバーナード帝国に位置する。
強力なスキルを有する数多の貴族たちを牛耳っている皇族のスキルがなんなのか、ハイドはこれまで考えたこともなかった。
こんな辺境の地では帝都で暮らす皇族とは何の縁もゆかりもないだろうと踏んでいたからだ。
だが、今になってはそんな自分の愚かさが恨めしい。
バーナード帝国を治める皇族が代々受け継ぐスキル。
それは、【鑑定】だった。
他者のスキルを見抜くスキル。
初代皇帝はこの【鑑定】スキルで優秀なスキルを持った人材を登用することで、大陸中央の覇権を確立し、
つまり今回の帝都への訪問の目的は、いまだスキルに目覚めないハイドが潜在的に秘めているスキルを皇族に視てもらう――というものだった。
(【鑑定】のスキル、そりゃあ存在はするだろうと思っていたけど、まさかこの国の皇族が持っていたなんて……)
スキルで視られてしまえば誤魔化しようがない。
ハイドが抱える四つの最強スキル。それを隠し通す手段はないのか――。
眉間に皺を寄せて考え込んでいると、対面に座るドルフが心配そうに声をかけてくる。
「ハイド、気分でも悪いのか?」
「い、いえ……その、帝都は初めてなので緊張して」
「……そうか。思えばお前はセントリッツにも行ったことがなかったな」
まさかここ数日、連日のように足を運んでいるとは露知らず。
「お前がエンジュのようにお転婆であれば今回のことも考え直したが、お前は昔から聡明だからな。礼を失するようなこともないだろう。この父が保証する」
「それは……ありがとうございます」
ドルフの言葉で思い起こしたのは、ハイドたちが帝都へ行くことを知ったエンジュのことだった。
以前の遠征の時のように「私も行きたい!」の一点張りだったが、流石に前回の経験から無理についてくることはなかった。
「ハイド、そう心配せずともよい。お前の剣術はすでにモンスターと十分戦えるほどに成長している。たとえ戦闘系のスキルでなかったとしても、お前は立派にリューゲン領を治めることができるとも」
「父様……」
そこまで評価されているとは思ってもいなかったので、素直に嬉しかった。
「しかし、お前のことでもなければ帝都へはあまり行きたくないものだな」
「どうしてですか?」
「中央の連中はどうにも貴族の責務というものを忘れた連中が多いのだ。領地の管理を代官に任せ、本人はモンスターと戦うこともなく贅沢三昧。まったく、嘆かわしいことだ」
苦虫を噛み潰したような顔で語るドルフに、ハイドも思わず枯れた笑いを漏らす。
(確かに父様が一番嫌いそうな場所だな)
真面目なドルフとは相容れない存在なのだろう。
「あの、父様」
「なんだ」
「もしかして俺のスキルは皇帝陛下に視ていただくのでしょうか」
「どうだろうな。書簡にはお前を受け入れる旨が記されていたが、【鑑定】に目覚めた皇族の方であればどなたでもあり得るだろう。……ああ、皇族といえば」
ドルフがふと思い出したように言う。
「第四皇女が、ちょうどお前と同い年だったな。お会いする機会はないだろうが、もし城でお見かけしても失礼の無いようにな」
そう言いながら、ドルフは「お前なら心配ないだろうが」と豪快に笑った。
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