第30話 U2

「おかえり、出張お疲れ様でした。どうだった?」


悶絶もんぜつした……」


「ヨーロッパに?」


「んなわけないだろ、綾乃とお前にだよ!」


 どっちもどっちな会話だが、楽しく盛り上がる二人を見て綾乃は眼を細める。昨日帰国した一樹を労うねぎらうディナーパーティ+αが始まった。


「二人のプレイ、見たかったな……。文面だけでヤバかったもん、俺」


 真面目な表情で一樹が言うので亮介はクスッとした。


「画像は受信できてないしな? gメールってやつ大丈夫だった?」


「うん。全然容量違うし、今後はこっちをメインで使おうと思う。検索もいい感じだし」


「綾乃にはだいたい聞いたんだけど、亮介、どうやってあんないろいろ思いついたわけ? 悔しいけど、俺あんなの一つも出てこなかったもん」


「自分でもわからない。ただ、必死だった。それに……」


 綾乃の方を見つめながら亮介が言う。


「死ぬほどかわいくて、綺麗だったんだよ……綾乃さんの表情」




 一樹は綾乃を一瞥し、深呼吸してから言った。


「お前、やっぱり綾乃のこと……」


「うん、大好き。悔しいのは俺の方だよ。毎日一緒にいて、同じ空気吸って、心の底から羨ましいと思ってる」


 ついに言ってしまった。


 寝取られよりもずっとずっと前から。

 心のずっとずっと奥底で。

 騙し騙し抑えてきたこの感情。




「うん。やっぱりそういうことだよな……」


 穏やかな表情で一樹が言う。綾乃がそこに続ける。


「だから、引っ越そうかと思うの」





「え、ひ、引っ越すって、どこに!?」


 なんでも正直に言ってしまうのが亮介の性格だったが、この時ばかりは後悔した。下手でもいいからせめて取り繕ってとりつくろっておけば……。離れるなんて嫌だ、耐えられない。そう思っても遅い。亮介は全身から力が抜けていくのがわかった。




 

「どこにかはまだわからない。でも、お前も引っ越すんだよ、一緒に」

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