第1章 砂漠の国から落っこちた 第6話

「しかし、とは、謎掛け大好きなアイツらしいわな。」


宿の食堂でダンちゃんが小箱片手に笑う。


『どぎついばーさん』こと最長老の老婆によると、父からもらった小箱がからくり箱であることがわかった。その中にはパパが13歳だった私のために手に入れた、とっておきのプレゼントが隠されているのだと。


「箱を解く鍵は娘が知っている」とパパは言ったというけれど、私は皆目見当もつかない。結局それ以上有益な情報はなく、私たちは老婆の洞を後にして宿に向かったのだ。


「謎掛けって…ヒントの一つもないなんて、ひどいわよ、パパ…」


ブツクサと言いながら、サフランライスの上にダイナミックに盛られた骨付きラム肉にかぶりつく。


「見たところ寄木の半分は可動式だ。片っ端から組合せたら数万通り。だったら、アイツのヒントを探す方が早いよなぁ。」


「そりゃそうなんだけど。そもそも、からくり箱なんて初めて見たし、今のところヒントに心当たりもない。一歩前進したけど、次の一歩は時間がかかりそう。」


グビグビと豆のスープを飲み干した。


「とりあえず、箱の開け方はおいおい考えるとして。明日はいよいよ現場!ダンちゃん、ナビゲートどうぞよろしくお願いします。」


夕飯をしっかりと完食し、改めて頭を下げた。そんな私の言葉に、手の中でコロコロと小箱を転がしていたダンちゃんは動きを止め、真っ直ぐに私に向き直る。


「あぁ。そっちはドンと任せろや。」


5年前、発掘調査中のエリアで突如起こった巨大な砂嵐。パパとダンちゃんを含むチーム18名のうち、パパだけが行方不明になった。以来、ダンちゃんはずっとこの国で遺跡の発掘調査を続けながら、パパの行方を探している。


私は祖母が亡くなった後この国に渡って2年が経つけれど、父が消息を絶ったその現場に訪れるのは今回が初めてなのだ。


「砂漠の移動は早朝だ。明日に備えてしっかり休むこったな。」


ダンちゃんが大きな手でグシャグシャと頭を撫でる。


「だからもぉ、それやめてってばぁ…。」

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