第15話
「お久しぶりですシュノード様!!!ずっとずっとお会いしたかったです!!!」
甘える口調でシュノードにそう言葉を発するエリス。
しかし、それを見るシュノードの表情は非常に険しいものだった。
「エリス、なれなれしいことを言わないでもらえるか?もう僕と君は無関係なんだ。そして僕は第一王子であり、君はただの女。身分をわきまえてもらえるか?」
「シュ、シュノード様…?」
エリスはこれまでに一度たりとも、このような雰囲気のシュノードを見たことがなかったのだろう。
自分の目の前に広がる光景が一体どういうことなのか、理解できない様子だった。
「シュノード様、怒っておられるのですよね?私が何も言わずにあなた様の前から姿を消してしまったから…。でも、それにはどうしようもなかった理由があったのです!」
「……」
「私、遠くにあるお花畑にどうしても行きたくなったのです!しかしあの時、シュノード様は私の事を過剰に警護されていて、私はお屋敷から外に出られない状況になっていました。だから、無理やりにでも出ていくしかお花畑に行く方法がなかったのです!本当です!信じて下さい!」
必死な様子でそう言葉を発するエリスであるものの、シュノードはそれに対してまったくリアクションを見せない。
…彼女の言葉が嘘だと思っているからか、それともそもそも彼女に興味がないからか…。
「エリス、もう僕に君は必要ないんだよ。僕の元には本物のエリスがいてくれるんだ。だから偽物の君などもう必要ないんだよ」
「……」
最初こそこの言葉は、シュノードが自分の事を困らせるために言っている者だと思っていたエリス。
しかし、その雰囲気は表情を見るにその言葉は彼の本心としての言葉のように思えてならず、そこにいたずら心やからかいといったかわいげのある感情は見て取れなかった。
「君にはもう愛想が尽きたと言っているんだ。もう二度とここには戻ってこなくてもいい。さよならだ」
「…はぁ、こんなことなら戻ってくるんじゃなかったな…」
「……」
「…シュノード様の事だから、今頃私の事を想って泣いてくれているだろうと思っていたのに…。まさか私の偽物を作り出して、しかもその方が好きになってしまっているだなんて…。正直、気持ち悪すぎて直視できないわ…」
「…はぁ?」
「本当はもう知っているんでしょう?私がなにをしようとしたのか。私は隣国の王子の妹だってこと、聞いていなかったの?」
エリスはシュノードの事を切り捨てることにしたのか、そのままぺらぺらと自分の真実を語り始める。
「この国の情報を掴もうと思ってあなたのそばに近づいて、ちょうどいいタイミングでいなくなってあなたをつなぎとめようと思っていたけれど…。それももう無理みたいね。まぁいいですよ?偽物の方が可愛くて自分にとって都合がいいというのなら、いつまでも偽物の方を愛していればいいんじゃないですか?私は最初からシュノードの事が好きだったわけじゃないので、このまま関係が終わってもいたくもかゆくもありませんし」
「なら構わないじゃないか。潔く僕の前から消えたまえ。エリスの亡霊、二度とこの王宮に姿を現すんじゃないぞ」
「どっちが。ここではいろいろと妙な動きがあるそうですから、シュノード様もお立場を失われないようせいぜいお気を付けくださいませ」
…互いにけん制的な言葉を掛け合う二人の姿に、かつての面影は微塵も感じられない。
しかし、去り際にエリスが発した言葉は、皮肉にもその後のシュノードの顛末を非常に的確に表すこととなるのであった…。
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