第13話
「エリス、答えてくれ…。僕が間違っているというのか…?」
「シュノード様…」
あの日以来、私の前にいるシュノード様は完全におかしくなっていった。
私の事を本物のエリスだと言い始めたかと思ったら、今度はどっちが本物のエリスなのかと問いかけはじめ、最終的に自分の事をより思っている方はどちらだと言い始めたのだ。
「(オクト…。あなたがいろいろと調査をしてくれているからか、こちらにもいろんな噂が毎日届けられてる…。中でもエリスが隣国の王子と血縁関係にあるという話は、ここに住まう人々の興味をかなり惹いている。…それが本当かどうかは分からないけれど、もしも本当だったら大変な事…)」
たぶん、その噂はシュノード様の耳にも少なからず届いているのだと思う。
だからこそ彼は今、このような不安定な状態になってしまっているのではないだろうか…?
「僕は間違いなく、エリスから愛されているんだ…。だから僕もまた、エリスの事を愛さなければならないのだ…。だというのに周りの連中ときたら、身代わりのエリスなど愛して何になるのかと噂話に花を咲かせている始末…。僕の思いが真実の愛であるというものが、どうして理解できないというのか…」
えっと、シュノード様、周りの方が言っておられることの方が正解だと思いますよ…?
私だっていまだに身代わりの立場にあるわけですが、身代わりを愛することで心に開いた穴をふさぐことほどむなしいことはないと思いますし、その事をストレートに告げてくださっている周りの方に怒り返すことは、それこそ周りの思いを無下にしているように思えますし…。
周りの方々の手本にならないといけないはずの第一王子様がそのようなご様子では、きっと今まで以上に信頼を失っていくだけと思いますし…。
「…エリス、君は最後まで僕の味方でいてくれるのだろう?なら君は本物のエリスだ。周りの奴らは何を言っているのか知らないが、僕だけは君を認めている。君を確かに愛している」
「(…あなたが愛しているのは私ではなく、いなくなったエリスではありませんか…。そのようなうすっぺらい言葉をかけられて、私が喜ぶとでも…?)」
「僕に愛されるという事は、この国に生きる女として最上級の喜びであると考えてくれ。ほら?分かるだろう?君はもう普通の人間ではないのだ。この僕に認められたたった一つの存在なのだ」
私の事を見つめながら熱い口調でそう言葉を発するシュノード様。
そこには嘘偽りの思いは一切ないように見て取れるけれど、そもそも私をここに置いていることそのものが嘘偽りなのだ。
だから、私に対する思いが真実の愛であるはずがない。
あなたが本当に欲しているのは、もっと違うものなのでしょう?
「…もしも、もしも君が僕を裏切ったなら、その時はいなくなったエリスの後を追ってもらうからね?だから余計な事を考えるんじゃないぞ?君は僕に言われた通りの仕事をしていれば、それだけでいいんだから」
…ほら、ちょっと不安になったらそんなことを言って私の事を縛ろうとする。
それは結局、あなたが自分の思いに自信がないことの裏返し…。
本当にあなたが真実の愛を抱いているというのなら、そんなことを言う必要がないのだから…。
「シュノード様、今日はもう休まれてはいかがでしょう?最近お仕事がかさんでおられましたから、お疲れなのだと思います」
「そ、そうか…。確かに、それもそうかもしれないな…」
…オクト、早く私をここから連れ出して…。
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