第32話
「なんでこうなるのよ!!私がヒロインなのに!!!」
劈くような声で喚いているのは自称ヒロイン。
まあ、ゲームとかでは実際にヒロインだったのでしょうけど。
私ははあ、と溜息を吐いた。
「何故かって?ご自分の立場を弁えず、現実を見ず、思い込みだけで突っ走ったからですわ」
ちゃんと質問に答えてあげる私はやっさし~。
なんちゃって。
嫌味たっぷりだもの。
彼女はすぐに顔を真っ赤にして怒り狂った。
「ふざけんな!!!悪役令嬢のくせに!!!あんたがちゃんと役を演じないから――――!!!」
怒鳴る声がきっと、甲高く耳障りで煩いだろうと思ったので、防音の魔法をかけた。
おかげで、悪役令嬢のところは私以外聞こえていないだろう。
甲高い声にみんな顔を顰めていたので、聞こえなくなってホッとしたようだ。
「はあ、あなた、まだ気付かないの?」
「はっ?」
ついでに今は私の声も聞こえていない。
本当は時間を止めることができれば良かったのだけれど、結構難しそうだったので止めた。
魔力量も足らなくなりそうだったし。
「というか、悪役令嬢とか迂闊すぎ。前世の記憶を持っている割に立ち回りへったくそねえ」
そう言うと、彼女はさっと今度は顔を青くした。
「ねえ、自分が転生した、というのなら他の人も転生していないってどうして言い切れるの?ここまで原作が違うのに、どうして同じ行動ができるのかしら。ほんっとに謎」
はくはく、と彼女はエサを求める鯉のように口を開け閉めしている。
間抜け面、と思いながらにっこりと笑う。
「私も、前世の記憶があるわ。あなたと違って、この世界の元は知らないけどね?」
「な、なんで邪魔するのよ!!!気付いていたならなんで!!!」
「だって死にたくないもの。当たり前でしょ。逆になんで他人のあなたの思い通りに動かなくちゃいけないの?やってもいないことを私のせいにされるのだって嫌だし、結果が死じゃなくとも無実の罪で裁かれるなんて嫌だと思うのは当然じゃないの?」
「な、んで……せっかく、せっかく好きな世界に生まれたのに……!!!」
「知らないわよ。ここをゲームだと思っているからじゃない?この世界がゲームじゃなくとも、小説でも漫画でもなんでもいいけれど、ここを現実だとあなたちゃんと認識したの?」
唖然とする彼女に追い打ちをかける。
来るなら来い、と思っていた。
むしろ早く来てほしい。
早く終わらせたい。
「ここは現実なの。目の前のことを、ゲームを通して見ないでいたら、今とは違う結果だったでしょう。多少望んだ結果ではなかったかもしれないけれど、幸せにはなれたでしょうね」
魔石について調べたときに知った、一つの事実。
恐らく彼女は知らないだろう。
ゲームのアイテムとしか思っていないのだとしたら。
まともに授業にも出ず、ひたすら男漁りに必死になっていたのだとしたら。
彼女はその事実を知らず、加えて手遅れなのだ。
「こんな、こんな
「悪いけど、あなたの分岐はとっくに間違っていたの。そして、もう取り返しはつかない」
違法な魔石を取引している、と知ってからその特性について詳しく調べた。
授業では魔石の乱用は危険だ、としか言われてないので、正直その危険性の詳細を知る人は少ないだろう。
そもそも、正規ルートで手に入る魔石でさえ高額だし、乱用するほど使うことがそもそもないのだ。
違法―――というより危険な魔石はまず流通しないように国が管理している。それでもどこからかそういったものは流れる。
それが、今回のヤバいヤツ。しかも、手遅れだと言うのだから笑えない。
だからもう、救うにはこうするしかないと思った。
一か八か、どうなるかは正直私には保証できない。
いつものブレスレットは外してきた。このときのために。
膨れ上がった魔力はきっと彼女のものではないのだろう。
(全く!!もっとこういうものの危険性を教えなさいよ!!!)
平和ボケ、というのは本当にこういうことを言うのだろう。
まあ、知らなくても大丈夫なように、隠しているせいもあるだろうけれど。
魔力が彼女を中心に渦巻いている。
「リア、下がって――――」
「ごめんなさい、オーウェン様」
異常に気付いた彼が肩を掴んだのが分かった。
周囲の近衛兵や宮廷魔導士たちがすでに警戒して彼女に徐々に近寄っているが、彼らでは何もできないだろう。
「リア、何を、」
「本当にごめんなさい。でも、無理はしないから、大丈夫だから、信じてほしいです」
彼の手を握り、引き剥がす。
そして、一歩、前に歩み出る。
「っ、だめだ、いくな………」
彼の手から逃れるようにまた踏み出す。
そして、ほんの少し離れた隙に防御壁を張る。
「ふーっ」
正直、ここまで緊張することはそうない。
この世界に生まれて、ここまで緊張したのはきっと初めてだ。
オーウェン様との初対面より緊張している。
「なんで……っなんで……っ!!!」
泣きじゃくる彼女はまだ自分の状況に気付いていないらしい。
どくん、と何かが鼓動した。
(うわ、予想はしていたけど、マジでヤバイ……)
手に汗握るとはこのことだろうか。
今、世界の命運は私にかかっていると言っても過言ではない。
「はは、予想はしていても、本当にこうなるとは思わなかったかなあ」
軽口を無理矢理叩く。
「ひ、いや、なんで、なんでえ………?!」
彼女の知るバッドエンドではないのだろう。
当たり前だ。あそこまで彼女的にはうまく行っていたのだ。
多少思い通りにならなかったことには目を瞑ったのに違いない。
結果、想定以上のバッドエンドを迎えているわけだけれども。
「いやあああああああああああああ!!!!」
劈くような悲鳴。
まあ、乗っ取られるとか思っているかもだけど、それはない。
防御魔法に弾かれて、黒い靄もとい魔王は彼女の周囲を蠢いているだけだ。
「魔王が生まれる瞬間なんて見たくなかったなあ」
ヒロインが闇落ちとかそれなんてアクションゲー?
まあ、正確にはまだ闇落ちてないけど。
「御機嫌よう、魔王様。とっとと消えてくださる?」
「あぁ?チッ、やっと目覚めたところだってのに………」
まだ靄状態の魔王らしき何かは私を見るなり舌打ちした。
周囲はまさに阿鼻叫喚。
ああ、やっぱり時間停止魔法があればなあ。
だが、そうすると今度は魔王が倒せない。
うーん、しょうがない。
「
まずは動きを封じてしまおう。
完全復活の前に、ってやつ。
まあ、彼に実体はないわけなので、外に出ないように閉じ込めるだけだけど。
実体がなきゃ憑りつく必要ないもんね。
(ああ、大概私も現実見れていないかもな)
前世でのお決まりが脳裏をよぎる。
まあ、あくまで参考に、ならOKでしょ。
体力ゲージほしい~なんて思いながら、落雷で攻撃する。
(靄に攻撃ってダル………)
ダメージが分散されるのか、あるいはうまく靄を動かして避けているらしい。
まあ、どうにでもなるけれど。
きっとどこかに核があって、そこを潰せば、しばらくは復活できないだろう。
そして、周囲が固唾を飲んで見守っているのが分かる。
オーウェン様だけがこっちに来ようとして、宮廷魔導士たちに押さえつけられているけれど。
「ふん、
「残念ながら。あと私、あなた大っ嫌いなんで」
あの少女、が誰を指すのか気付いて、私は一際大きな雷で追撃した。
一番ムカつく言葉だ。
「人の悲しみを、痛みを笑わないでくれます?」
そして、冷ややかに告げて、トドメを刺す。
「地雷だったか………」
「ははは、二度と出てこないでくださいね」
乾いた笑いを零して、消えていく様を見送った。
急いで元凶となった少女を見たが、気を失っているだけで無事に生きているようだった。
そのことにひとまずホッとする。
まあ、結局ここで助かっても極刑は免れないかもだけど。
「今、のは………」
シン、と静まり返った大広間。
最初に口を開いたのは国王陛下だった。
さすがかな。けれど、
「ここで発表しますか?」
混乱しているとはいえ、それはよろしくないだろう。
私と魔王のやり取りは聞こえていないだろうけど、なんなのかは想像がつくはずだ。
王族で、しかも国王陛下なのだから。
「いや、うむ。魔女が誕生しかけたかと思ったが、冷静なそなたの判断のおかげで大事には至らなかった。感謝する」
「もったいなきお言葉でございます」
まあ、それがいいだろう。
魔王だなんて混乱させかねないし、なんならそれで私が勇者だとされても困る。
黒い靄はみんな見ているので、魔女くらいが妥当だ。
私が勇者だとしても、王太子との婚約は決まっているのだし、もう危険もないのに無駄に盛る必要もない。だって、実績がこれってしょぼすぎでしょ。
まあ、陛下がそこまで考えたかと言うと魔王が復活しかけたという混乱を避けるためだけだろう。
あとで勇者の称号は辞退すればいい。十分納得してもらえるだろう。
(そもそも折角今混乱を避けるために嘘ついたのに、勇者だなんて発表したら魔王のことを話さざるを得なくなるしね)
平和ならそれで良し。
というころで。
「魅了魔法をかけられた人たちを治します。その後の経過観察はお任せいたします」
そう告げると、国王陛下が改めて卒業パーティーのお開きを宣言し、この騒ぎで怪我人はいないが、魅了魔法の餌食になった人たちの治療をすることとなった。
王城の医務室にて患者を連れて行き(把握している限りなので全員ではないだろう)、一応私が中心となって、治癒・治療専門の宮廷魔導士と協力して、全員解いて回った。
やはり一番酷かったのは、トリニティ様とミア様の婚約者の2人。
最も彼女に近い位置にいたのだから、仕方がないといえばそうだが、魅了魔法に加え、洗脳魔法も強くかけられていたらしい。
彼女の近くにいる間は魅了され、離れると洗脳魔法によって、そのことを忘れている。そして、一定時間になると彼女の元へ行くように暗示がかけられていた。
とはいえ、無事に解けたので、あとは様子を見るだけだ。
マリア様―――いやマリアは簡単に治療をして後は問題なしと判断されたので、ギディオンと共に今は地下牢だ。
犯した罪が大きすぎてすぐさま貴族籍は剥奪されたので、平民の罪人と同じところだ。
本来貴族が罪を犯すと幽閉塔に閉じ込められて、罪が確定してから地下牢に入れられるなり、修道院に入れられるなりするのだが。
(ま、自業自得ってことで)
情状酌量の余地なし、ということだろう。
一通り治癒が終わったので、帰ろうと医務室の扉を開くとオーウェン様が待ち構えていた。
まさかこの時間まで待っていたのだろか。
ちょっとびっくりしつつ、そういえば制止を振り切って魔王を倒したなあと思い出したので、彼が待っているのは当たり前と言えば当たり前だった。
彼も王族で、王太子なのだから、あの正体を知っていてもおかしくはない。
「いつから待っていたんです?仰っていただいたら、別室を用意いただきましたのに……」
「……送る」
「はい」
私の言葉には返さず、ぼそりと言った。
(わあ、怒っていらっしゃるぅ………)
申し訳なさでいっぱいだが、魔物大量発生のときにも一応そういうことはあると断ったし、正直あれは他にできる人がいるとは思えなかった。
「……………」
「……………」
無言のまま進む。
もう夕暮れだった。
本物の勇者がそこにいたら別だったかもだが。
(いや、育ってなければ意味ないわね)
レベル1の勇者などスライムにさえ勝てない。
この世界にスライムがいるのかは知らないけれど。
「君は、ほんっとうに………っ」
馬車に乗り込むとようやく彼は口を開いた。
「申し訳ありません」
「本当に悪いと思っているのか?」
ぎろりと睨まれてしまうが、私の答えは以前と同じだ。
「ご心配おかけしたことについては」
「はあ…………」
私の返答に彼は深く溜息を吐くと、彼はぎゅうっと私を抱き締めた。
「無事で良かった………」
「心配してくれてありがとうございます」
「当たり前だ!!好きな、女のことだぞ。本来、守るべき、なのに………」
「私もあなたを守りたいと思うのです。その気持ちに男女は関係ないと思いますが」
「君は言い訳の達人だな……。ああ言えばこう言う……」
「ふふ、ごめんなさい」
顔を見なくとも彼が拗ねているのが分かった。
すり、と彼に頬を寄せる。すると、彼は私の両頬を包んで自分の唇を私のそれに重ねてくる。
(ああ、本当にあなたがどうしようもなく………―――――)
言葉がそこで消える。
この2年で本当に癖になってしまった。
けれど、私が恐れていたことは終わった。
彼の気持ちは変わらなかったし、私も同じだ。
ようやくこのときが来たのだと思った。
言葉の代わりに伝えてきた。
けれど、もうそんなことしなくていい。
長いようで短かったこの2年間。
オーウェン様からしたら本当に長かっただろう。
だから、間もなく公爵家の屋敷というところで私はついに切り出した。
「オーウェン様、今度お時間いただけます?」
「ん?」
「今まで散々引っ張りました件について、お話したく……」
まあ、あの断罪論破劇場を見て、これまでオーウェン様も知らぬが仏、というとを身に沁みて学んだだろうから、聞きたくないと言われてしまえばそれまでなのだが。
今すぐ言ってもいいのだが、さすがに諸々説明する必要があるし、心の準備はしたい。
「分かった!すぐに時間を取ろう!すぐ調整するから招待が来るまで少し待っててくれ!!」
しかし、やはりというかなんというか……
オーウェン様は先ほどまでの怒りはどこへやらパッと顔を輝かせて、本当に嬉しそう、というか待ってましたと言わんばかりの笑顔だ。
(まあ、ずっと待て、の状態でしたものね……)
犬耳と尻尾が見えるようだ……
私どちらかと言えば猫派なんだけど、このときばかりは犬派になってもいいかな、と考えてしまう。
そんなことはさておき。
(何からどう話すか整理しておかないと……)
これまでも何度か話すときのことを考えたことはあるが、すぐそれどころじゃなくなってしまって、ろくに考えられなかった。
(早めに組み立てないと………)
何から話すのか、何を話すのか。
この2つだけでも決めてしまわないと、きっとうだうだしてしまうに違いない。
細かいところは話していくうちにまとまるはず、だ!←
(はあ、こういう話になると、どうしてこうも自信がなくなってしまうのかしら……)
避けてきたことだからしょうがないと言えばしょうがないのだが、もう少しどうにかならないかと考えてしまう。
そうしているうちに屋敷について、馬車の扉が開く。
すぐにオーウェン様が身軽に降りて、手を差し出してくれる。
(もう、王太子様がすぐそうやって………)
でも、嬉しいので小言はぐっと堪えて、その手を取る。
「ありがとうございます………」
お礼を言って、ステップを降りきる。
すると、唐突にぐっと引き寄せられる。
ビックリして為すがまま彼の胸の中に飛び込んでしまう。
「お、オーウェン様………!?」
恥ずかしさに顔が真っ赤になるのがわかった。
「話、楽しみにしてる。……また明日な」
ま、また明日……!?
彼の言葉に驚いて、顔を上げると、悪戯っ子のような微笑みを浮かべて、そっと額に口付けてくる。
(早いだろうとは思っていたけど、まさか明日呼ぶつもり……!?)
招待状だとか召喚状なんかはどうするつもりだ???
混乱しながらも、彼の温もりが離れ始めると寂しい、なんて思ってしまうのだから、質が悪い。
(ああ、もう!)
なんだか悔しいので、お返しとばかりに彼の頬にキスを返す。
「御機嫌よう!!」
もうあとは逃げてしまえ。
私は、少しはしたないと思われるかもしれないが、気にする余裕はなく、少しだけドレスの裾を持ち上げて、あとはヒールなので風魔法を使って、ぴゅん、と彼の前から逃げ出した。
「それは可愛すぎるだろ……ずる………」
とかなんとか、彼が呟いた気がしたが、聞こえないふりをして、私はそのまま屋敷の中に駆け込むのだった。
* * *
屋敷に入ったあとは、熱を持つ頬も、メイドたちの何か言いたげな、ニヤニヤとした笑みも無視して、サラだけを呼んで、お風呂を済ませて、部屋着へと着替える。
もうさっさと寝たいところだが、まだそうもいかないだろう。
ある程度身支度が終わったところで、部屋がノックされる。
サラが扉を開けてくれて、執事が姿を見せる。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「ええ、すぐ行くわ」
予想通りの用件なのですぐに返事をする。
お父様の前に出て問題ないか最終チェックをして、すぐに執事の先導で執務室に向かう。
「旦那様、お嬢様をお連れしました」
「ああ、入ってくれ」
執事がノックして声を掛ければ、すぐに返事が返ってくる。
執事に促されるまま中にはいると、すでに私以外の家族は全員揃っていた。
「お待たせいたしました」
すっとお辞儀をすると、お父様は「問題ない、楽にしてくれ」と言うので、肩から力を抜く。
「今日は大変だったわね、リア。お疲れ様。無事で良かったわ」
お母様がぎゅっと抱き締めて労ってくれた。
「ありがとうございます、お母様」
嬉しくてぎゅっと抱きしめ返すと、その頭をギルお兄様が撫でてくれた。
「はは、最初は滅茶苦茶イラッとしてたんけど、リアがどんどん論破していくもんだから、スカッとしたよ」
「ふふふ、良かったですわ」
悪戯が成功した子供のようにニンマリと笑う。
「ああ、素晴らしかった。学園でのことは報告を受けていたとはいえ、不愉快でしかなかったからな。あそこまで完璧に立ち回れてリアはすごいな。さすが私の妹だ」
「時間をたくさん頂けましたもの。でも、そう言っていただけて嬉しいですわ」
アルお兄様からも珍しくべた褒めで照れてしまう。
まあ、たとえ時間がなかったとしても何も問題などなかっただろう。
「ああ、素晴らしい出来だった。後始末、というかもう殆ど私たちの管轄だが、後処理は任せておきなさい」
「はい、お父様。よろしくお願いします」
お父様も満足げに笑ってくださっていて、とても嬉しいわ。
あそこまで大々的に論破して、証拠も揃っているとなると、言い逃れはできないし、余罪も突き止めやすいだろう。
「とりあえず、今後の話をしよう。疲れているところ悪いが、座りなさい」
「はい」
お父様の言葉を合図に、私たちは座る。
お父様は一人がけソファに、私とお母様が二人がけソファに座って、テーブルを挟んだ向かい側にお兄様たちが座る。
(思っていたより早かったですわね)
まあ、あれだけの証拠が揃っており、あわや魔王復活となったのだから、緊急性は何よりも上だろう。
魔王については伏せられるだろうけれど。
私がせっせと治療にあたっていた間、お父様たちは後始末の話をしていたわけだ。
「ひとまず、簡単な方針だけ決まった。正式にはこれからだから、それまではここだけで頼む。まずアンカーソン侯爵家だが、あそこはあのバカを廃嫡することでお咎め無しだ。跡継ぎについては、侯爵の弟の下の子が成人にしたら継ぐ。とはいえ、まだ10歳になったばかりだから、まだ先だがな。現アンカーソン侯爵に何かあれば、彼の弟が繋ぎとして継ぐ予定となった。アンカーソン侯爵自身もしばらく忙しいだろうが、それで決着が着いている。近いうちに正式に謝罪をしたいそうだ」
「分かりましたわ」
お父様の報告に私は満足して頷く。
「リア、本当に侯爵自身にはお咎め無しで良かったのかい?」
昨日のうちに簡単に要望は父に伝えておいたので、それを元に動いてくれたのだろう。
「アンカーソン侯爵様の評判は聞いたことがありますわ。あんなバカのせいで、彼を政務から外す方が損害かと。それに、辞めるだけが責任ではありませんしね」
なので、私に文句はない。
肝心の罪人の罰が軽くなったのであれば、多少不服は漏らすが、基本的に決まったことにぎゃあぎゃあ文句を言う気はない。
「リアがいいならいいんだ」
アルお兄様はちょっとだけ不満みたいだけど、それ以上は食い下がらなかった。
まあ、いずれはお兄様が代替わりするまでアンカーソン侯爵様を顎で使うでしょうしね……。
アンカーソン侯爵様の罪はせいぜいが子育てが下手くそ、という程度でしょうから。まあ、こればかりは正解があるわけではありませんし、侯爵様はお忙しいのでしょうから、あとは家庭教師あたりの問題かしら。あとは周囲の環境が影響を与えるのでしょうから、仕方がないと言えば、仕方がない。
それに、侯爵様からの情報のおかげで、証拠も完璧に仕上がったので落とし所としては問題ないでしょう。むしろ、これ以上はやり過ぎになってしまうもの。
「セイラー子爵家も結局、廃嫡でケリをつけている。まあ、あそこは正直その娘がもう地下牢に入れられているし、貴族籍の剝奪も決まっているからな」
まあ、そうでしょうね。
彼女もまさかヒロインの自分が魔王になりかけるとは思わなかったことでしょう。
自業自得だから、気にしないけれど。
「それから、子爵家は当代限りで取り潰しが決まった」
「あら、ついにですの?」
「まあ、あそこは元々評判がよくなかったしねえ」
ギルお兄様が苦笑を浮かべる。
この決定は正直遅過ぎるくらいだが、あの子爵、なんだかんだで領地経営や最低限の仕事はしていたらしく、下半身のだらしなさは目を瞑られていたようだ。ただ、婚外子しかいなかったから、結局跡継ぎをどうするのかという大きな問題があったわけだが。
「まあ、それだけでは子爵本人に罰が軽すぎるということで、娼館の出入りが禁止になった」
「それはそれで大丈夫ですの……?」
結局それでは身近な娘に手を出して、と言うのを繰り返すだけになるのではないだろうか……。
「まあ、そんな余裕はなくなるだろうよ」
「つまり?」
「子供の認知を強制的にさせることになった」
(うわ………)
思わずそんな声が漏れそうになって、慌てて口を塞ぐ。
「あと子爵夫人とは離縁することとなったから、女性使用人も禁止となる」
「ああ、では婚外子たちは別で暮らすと?」
「まあ、もう大人になっている子たちも多くてな……。既に自分の生活を確立しているのに、今更一緒に、というのも酷だろうし、それまでの養育費を払うという形で追々支払わせる」
要するに罰金―――前世で言う慰謝料みたいな感じだろうか。
死ぬまで馬車馬のように働いて返せるかどうか、といったところだろう。
監視も着くだろうし、最早去勢した方が楽だろうな。
まあ、次に女性関係で問題を起こせば容赦なく去勢、ということになっているらしい。
まあ、監督不行届の責としては重いかもしれないが、娘と認知した者が、いくつかの婚約破棄を誘発を目論み、実際破棄された話もある。加えて公爵令嬢―――しかも、王太子殿下の婚約者への不敬のみならず王太子殿下自身への不敬、その他格上の令嬢への不敬として、半ば本人の代わりに負う形になってしまったので諦めてもらうしかないだろう。
きっと子爵本人もこんなことになるとはさすがに思っていなかったに違いない。
恨むなら自分の娘と監督を怠った自分自身を恨むことだ。
「妥当なところだと思う。極刑でないだけマシというものだろう」
お父様は不服そうに言ったが、正直割とあの場で本人を、娘である私が断罪しまくった感があるので、我慢できる、といったところなのだろう。
「それからヘイロン公爵家は取り潰しとなった。とはいえ、急な話だし、それなりに大きな領地だから、元ヘイロン公爵夫人に子爵の地位を与えて、改めて領地を治めてもらうことになった」
「まあ、英断ですわね」
ヘイロン公爵自体は潰す必要があるが、領地をほっぽりだすわけにもいかない。代理をあてがっても、しばらくは苦労するだろう。それなら、その土地をよく理解していて、かつ優秀な人材を置いた方がいい。という点から元ヘイロン公爵夫人は適任だったのだ。元々彼女が治めていたに等しいのだから、何も問題ないだろう。むしろ、財源に余裕が出てきて、よりよくなるのではないだろうか。あ、もう子爵か。正式に叙爵するのはこれからだろうけれど。
とりあえず、無関係だった元ヘイロン公爵夫人とナーシャ様が巻き添えを食わなくて良かったわ。
その辺りはきちんと配慮してくれたのだろう。
「もちろんヘイロン嬢とあのクズとの婚約は、陛下の名の下に破棄されている」
お父様が思い出したように付け加えてくれた。
まあ、これも当然だろう。
完全にやかして廃嫡されたので貴族でもない。一方でナーシャ様は、爵位は下がるが貴族という立場のままだ。婚約は一種の契約。どちらも立場が変わり、契約が成り立たなくなったのだから当然だろう。
「それから、同様にいくつかの縁談はやはりだめになったらしい」
続いて、私的に一番気になる話題だ。
どうやら、マリア様の魅了・洗脳無しでも引っかかった阿呆や、駄目だと思いながらも現状の婚約者への不満から乗っかった馬鹿たちは相手の女性側の家から婚約破棄を言い渡され、それによって廃嫡されたところも何人かいるらしい。
ま、自業自得ね。
「ラインハルト辺境伯家とアーシュレイ侯爵家は、強い魅了、洗脳をかけられたことから情状酌量の余地ありと見做され、一旦破談にはならなかったらしいが、その迂闊さで相手を傷付けた事実はある為、その償いとして色々試練は言い渡されるらしい」
その辺りの詳細はお友達に聞きなさい、とお父様が穏やかに言ったので、頷いておいた。
確かにそれは人伝より、本人たちから聞いた方がいいだろう。
イジメの噂についても念のため調べておいたが、やはり痕跡がほとんどなく、唯一あった教科書やノートの落書きに至っては筆跡鑑定から本人のもの、つまり自作自演だろう、ということでお父様たちも判断したらしい。
それから、噂を流したのはマリアとギディオンだが、広めた馬鹿共は魅了・洗脳の有無を確認して、洗脳されていなければ相応の罰を下す、とのことだ。
面白半分に広めた結果がそれ、というのだから甘んじて受け入れてくれ。
既に数人、私の報告によって罰を受けている人もいるけれど、私の耳に直接入らなかった人たちが今後対象だろう。
ただそういう馬鹿なので、逆恨みには気を付けるように、と言うのがお父様のお達しである。
ひとまずはあのある意味大事件の決着はこんなところだろう。
あれだけの大事件をこの数時間でよくもまあ、片づけたものだ。
まあ、証拠が揃っていて判断しやすかったのかな。
「あとはリア」
「はい」
「明日、私と王城に登城する。陛下が改めて話を聞いておきたいそうだ」
「承知しました」
頷いてから、そういうことか、と先程のオーウェン様の言葉が蘇る。
(また明日って、きっとこれのことね)
安心したような、不満なような……
今まで黙っていた話をするぞ、といざそのときがきたとそれなりに覚悟をしたのに、実はまだだった、なんて肩透かしを食らったから……。緊張していたせいで安堵したけど、おかげで余計な緊張だったっていう不満は少しだけある。
(いずれにしろ話すのは変わらないのにね)
それが遅いか早いかだけだし、オーウェン様に至っては卒業まで、と期限を伝えたとは言え、前後する可能性も示唆しつつ、結局ここまで言えないままだったし、彼よりマシだと言い聞かせて、私の複雑な感情はポイッと捨ててしまおう。
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