第30話 極めよう、祝福者の力を
特訓が始まって、およそ二時間以上経過した。
「ふぅ・・・。運動、不足かな・・・」
二時間も続けていると、それなりに疲労がたまった。
何だか手足がいつもより重く感じる。
二時間以上もの間、魔法攻撃を食らいながら特訓し続けたら、こうなるのは必然か・・・・。
相反して。魔法を次々と使っていたのに、特に疲れた様子の無いリカードが普通にすごいと思える。
こっちは疲れて目眩を起こす手前くらいにいそうなのに、向こうは見た目と反して結構タフみたいだ。
「次、打ってもよろしいかな?」
「ええ、準備なんていくらでもできてます!」
息絶え絶えの状態だが、凛人は勢いよく返事をし、喜びとやる気が相まって拳を強く握る。
なぜ凛人がそこまでやる気を出せるのか。
決まっている。この二時間以上に渡る時間の中で、ようやくある『収穫』を手に入れたからだ。
「〈ストウムボール〉」
リカードの容赦ない魔法による五つの風の球体。
周囲の空気を巻き込み回転しながら、標的である凛人へ急接近する。
対して凛人は、風の球体へ左手を伸ばした。
そして何もない虚空へ。
「行け!!」
そう叫んだ。
その合図とほぼ同じタイミンクで、床から5本の漆黒の触手を出現させた。
凛人はついに操ることに成功したのだ。
風の球体全てを切り裂き、次の攻撃に備える。
「よし成功!」
ここに来るまで相当苦労したが、操作できるようになったことが何より嬉しい。
今のところ、心で念じればいつでも発動し、数も自在に指定できるようになった。
消すときも「消えろ」と念じれば消える。
そして同時に思った。
めちゃくちゃ便利で、めちゃくちゃ強いな。これ。
飛んでくる岩の塊を砕きながら、しみじみと思う。
「すごいなぁ。我ながらこんなことができるなんて」
ここまでくると何だか自分がやたら誇らしい。
最近まで落第生とかいう立場にいたのに、今はそれすらも忘れてしまいそうだ。
そのせいで誇らし気味に微笑すると、なぜかあちらも嬉しそうに微笑む。
「かなり使いこなせるようになってきたじゃないか。こうして悉く魔法を消し去られると、我が教え子でありながら末恐ろしいというものだな」
「いやいやそんな。まぁ、少し自信はでてきましたけど・・」
リカードのその言葉が何だかとても嬉しくてつい気が緩む。
それでも、はっ!、と気を引き締め直す。
次に何が来ても、対応するためにだ。
「それで、それの名前は決めたかい?」
「え?名前ですか?」
よく考えたら、この力の名前なんて考えていなかった。
今のところ漆黒の触手くらいの言い方しかない。
「特に考えてません。あった方がいいですかね?」
「勿論だとも。人や物だけでなく、あらゆる魔法にも魔法名がつけられているように、『名』とは尊いものなのだ。それをおのが技に名を与えないのは、無粋というものなのだよ」
「はぁ・・・・。そっか名前か。名前、名前、」
「篤と悩むといい!時間は有限だがな!」
普通と比べて2倍近くはありそうなオレンジ色の魔法陣を展開しながらリカードは言う。
「名前くらいゆっくり考えさせてくれないかな・・・・。じゃ、じゃあ、色は漆黒で、尖っててて、とても強いから・・・え~~~~~っと」
考えている間にも、魔法陣からは巨大な岩石が今にも飛び出してきそうだった。
考える猶予もどんどん減っていくなか、必死でいい名前は無いかと模索する。
「表面は艶やかで、どこからでも出れるし、魔法だって返り討ちに出きるから、えっと、な、なんだ!」
「〈
まだ何も決まってないのに、リカードはまっちゃくれない。
巨岩が迫ってくる。
「漆黒で鋭くて強い。漆黒で鋭くて強いから・・・!」
あせるあまりにそれ以外の特徴を放棄して同じ特徴だけを連呼しまくる。
結果。それが頭の中で謎の方程式を作り出し、つける『名前』がとうとう決まる。
「『
名としては安直過ぎる名を叫ぶ。
漆黒の触手改め、『
主に付けられた名を、まるで喜んでいるかのように感じた。
「なるほど、『
「やっぱり無し!安直過ぎました!」
「いや、それでいい。なんであれ、名が決まったな」
「じゃあ、まあいいか。無いよりは」
とりあえず『操黒』に決定。
(ごめん。僕にネーミングセンスがあったら、もっといい名前だったかもしれないね)
『操黒』に向かってすまないと思うと、日比谷にネーミングセンスが無いと言われたことを思い出す。
確かにこれじゃあ、日比谷に対してなにも言えない。
「やれやれ。次名前をつけるときには、もっといいやつにしないと」
「その意気でこれから新しい使い方を思い付いたら必ず名前をつけるように」
「これだけじゃない!?」
「当たり前だよ。己の技に名をつけるのは、クールというものだからな」
クールって何だっけ?
「『これ』に対処できる技にも、名をつけるべきだろうな」
言った途端。
一つ一つ色が違う、15個の魔法陣が展開された。
それを見たら、凛人は嫌なことを思い出した。
「これって、さっきのやつじゃ────」
「ご名答!『ソレイユフラッシュ』だ」
「やっぱり!?」
15個の魔法陣は光の粒子となって、やがて一つの魔法陣を形成する。
そこから放たれるのは光。
触れたものを焼き焦がすほどの閃光だ。
本格的に『操黒』を操れるようになる前に左手を焼かれ、その痛みに悶絶した。
第一、『ソレイユフラッシュ』は光そのもの。
普通の魔法のように防いだりは出来ない。
「仕方ない!行け、『操黒』!」
凛人は5本の『操黒』を自分の前で重ね合わせた。
でもそれは、全く意味がなかった。
「全然隙間空いてるし。どうやってあんなの防ぐんだ?」
重ね合わせた『操黒』を元に戻す。
「せめて一哉とか瀬野村見たいに壁を作り出せたらいいのに!」
突発的な提案の後にそれは起こった。
5本の『操黒』が床を這い、少し進んでそのは場で一体化し、床の一部分が黒く染まる。
そして黒く染まったその部分から上に向かって、長方形の壁が形成された。
「で、できるの・・・・・!?」
瞬く間に完成した黒い壁は凛人とリカードの間に立ちはだかり、その大きさのせいで向こう側はわからない。
凛人の背丈を優に越えるその大きさがあってこそだ。
(こんな使い方もあるのか、『操黒』は)
新たな性能を知った刹那。
壁を隔てて眩い光が輝きだした。
あまりの輝きに凛人は顔を手で覆う。
(しまった!『ソレイユフラッシュ』が・・!)
『操黒』が合体して作り上げた黒き壁を隔ててなお、その輝きはこちら側までしっかり伝わる。
でも、それだけだ。
確かに眩しいが黒い壁は光を完全に防ぎ、凛人を一切の被害から守っている。
それはおろか、消えることもなければ焼き焦げることもない。
向こう側では膨大な光が押し寄せて来ているだろうが、徐々に徐々に弱まり始め、やがて消えてしまった。
「すごい。あれを防ぎきった!」
これに関しては本当にグッジョブとしか言いようがない。
「ほう。融合して壁なども作り上げることもできるのか」
壁の向こう側からリカードの声がした。
消えろと念じたら通常と同様に消えてくれたので、ひとまず安心。
「『ソレイユフラッシュ』は太陽の如き威力を持った光の熱であらゆるものを焼き払う魔法だ。なのに、傷1つ付くことなく完封されるなど木っ端な防御ではなし得ない」
カツ、カツ、とこちらに歩いて来ながらリカードは言う。
「『融合』という新しい性質を見させて貰ったが、あれも元から知っていたのかい?」
「いえ全然。というか光を防げるようなものを念じたら、勝手に」
「念じただけであれか。なるほどな」
割りと大雑把な説明だった気もするが、リカードは納得したような反応をとった。
少し考えたら、どうやら結論が出たらしい。
「なるほどな。つまり君の『操黒』は「場所」という概念があればどこからでも、そしていくらでも発生させられることができ、使用者が念じればあらゆる形に変形、変質できる。といったところか」
「どんな形にもなれるって・・・・。あの、僕が言うのも何ですけどとても────」
「ああ。凄まじいものだな」
それはそうだと思った。
なぜなら、どこからでも出せて自由に形や性質を変えられるなんて無敵の力。
まるで─────。
「こんなの、ラノベの主人公が持ってるチートなスキルみたいだ」
「ん?らのべ?」
「ああいや、僕のいた世界にある本の一種です」
「そうか。また後日聞くとしよう。それより、さっきの巨壁の名前は?」
「え?これにも名前いります?」
「当然だろう」
「はぁ・・・、今回ばかりは良いやつ付けないとな」
一応考えたが、やはり浮いた名前を付けると後々面倒なのでシンプルなやつに決めた。
「
「了解した」
あっさり決まったが、今回はシンプル過ぎただろうかと思う。
それは置いておいて、特訓の続きだ。
「リカード先生。次、お願いします」
「よし。では遠距離はひとまず終え、次は─────」
言葉を途中で切ってリカードは『呼出』で二振りの剣を取り出した。
凛人は『操黒』を出す準備をした瞬間的、リカードが一瞬で距離を縮め、眼前に迫り、剣を振り下ろす。
「うおっ!?」
後ろにのけぞる形で回避。
しかし回避してすぐに追撃は来た。
「来い!!」
ギリギリのタイミングで『操黒』を使い、防ぐ。
「容赦ないな相変わらず!!」
「さぁ、続いては近距離での攻防だ!」
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