第18話 前夜
「あ~~あ。モンスターと戦った日に浸かる温泉は最高だな」
「確かにな。てか、あれっ?そこにおわすのは数回魔法を放っただけなのに先生から表彰されて周りから批判を食らった黛凛人さんじゃないですか」
「水鉄砲を食らうか髪を洗ってる最中に水をかけられるか、どっちがいい?」
「冗談だよ。お前もお前なりに頑張ってたぜ」
「そいつはどうも」
ふてくされたように凛人は一哉から視線をはずして天井を見上げた。
現在、凛人と一哉は学生寮の一階に設けられた巨大な入浴施設で浴槽に浸かっていた。
入浴施設はそこらのスーパー銭湯よりも広く、風呂の種類も多い。
しかもジャクジーや水風呂、寝湯まで備え付けられているのでビックリだ。
この時間は他の生徒も多数入浴施設を使用している。
「はぁ~~」、と、風呂の癒しと明日への憂鬱から軽いため息を吐く凛人。
「一哉は明日、どうするんだ?」
「どうするんだって、何がだよ」
「明日はどんな感じで望むかってことだよ。僕は・・・・出来るだけ皆の邪魔にならないようにする」
「おいおい、そんな消極的でいいのか?」
「それで張り切って、結局お荷物になるのはごめんだからね」
我ながらなんて後ろ向きな発言したんだろうと思う凛人だが、それが最善だとわかっているからこそ言えたことだった。
何かで活躍できないどころか、自分と同じ枠になっただけで腹を立たせる者までいるならもうどうしようもない。これが一番合理的でチームのため。
「好きにすればいいが、決めるのはおまえだぜ?」
「え?」
真剣な表情の一哉が、後ろ向きな考えの凛人に対して眉間にシワを寄せていた。
いつもより真面目な顔の親友に、凛人は少しキョトンとする。
「お前が言ってるのは、自分の実力とチームからの評価で決めたもんだろ?」
「そうだけど」
「でもな、そんなルールなんてないし、そもそもそんな消極的なまんまじゃなんの意味もない。ならばいっそ、おもいっきりやって馬鹿みたいな失敗しろ。結果なんて所詮、やった後にしか生まれないしな」
「なぁごめん一哉。君は、本当に有野一哉か?」
「な、なんだよ失礼だな」
「えっと。一哉がとんでもなく立派なことを言ってるな~と思ってさ」
「んだよ!人がアドバイスしてやったってのに!」
「・・・・・あはははは。さすが伊達に柔道やってる訳じゃないんだな」
それから少し、湯船に移った自分自身の顔を見つめ、凛人は決心した。
「一哉、やっぱり考え直すよ」
「ああ。頑張れよ」
凛人はもう一度、自らについて考え始めた。役に立たないなら、どの分野でどのくらい役に立てるか。凛人自身の武器は〈砲炎〉と軽い身体強化。
でも武器は0じゃない。生まれた一つの希望を糧に、成すべきことを模索する。
そのすぐ後、背後から何者かに後頭部を鷲掴みにされた。
そして、
「てめえ、重要なこと忘れてねえだろうな」
いきなり湯船に沈められた。
後頭部を押さえつける強い力に対応できず、ごぼごぼと悶え苦しみ、ふと力が抜けた隙を狙ってようやく湯船から顔を出した。
「ぶはっっ!!なんなんだ急に!!」
「おい天宮寺!!やりすぎだろ!」
「てんぐうじ?まさか・・・・・!」
聞き覚えのある名前に気づいた凛人が顔をあげると、一哉が凛人を沈めたのであろう右手を掴んでいた。このおかげで助かったのだと分かり、その腕の先を追っていくと、いた。
赤よりも紫に近い色の赤い髪の、筋肉、身長共に一哉を上回る大男。
天宮寺堅吾。
一哉に掴まれた右手を瞬時に振りほどき、凛人を睨み付ける。
「おい、てめぇ」
「な、なに天宮寺くん?明日は、同じ班どうし頑張ろ――――」
「喋んな。虫酸が走る」
(ええ~~・・・)
話しかけただけで血も涙もない一言が炸裂した。
なぜか額に血管が浮かび上がるほどキレている様子の天宮寺だが、時を同じくして一哉が対抗し始めた。
それに警戒した周囲の生徒達は、よそよそしく入浴施設から出ていった。
「おい天宮寺!お前何したかわかってんのか!?何が気に食わなくて、何にキレてんだよ!」
「有野、てめえと同じ班だったら何の文句もなかったんだがな。むしろお前は思わないのか?」
「なににだよ!!」
「
「え、なに?僕?」
どういう意図なのか、自分を指差してきた天宮寺に疑問を覚える凛人。でも、相当腹を立たせる原因が自分にあるのは確からしい。
「黛はよ、本物の雑魚のクセにへらへらと毎日を過ごしてやがる。遥か上の奴等が相当な努力をしているのにも関わらずな。俺はそんな雑魚が雑魚の中でも一番嫌いなんだよ。それなのに俺はこいつと同じ班となったんだぜ?これ以外に俺が腹を立たせる理由があるか?あぁ!?」
そして凛人と一哉は沈黙した。あまりにも自分勝手、だが強者だからこそ言えるその言葉に凛人は圧倒され、一哉は自分勝手な発言に逆に驚いていた。
「そ、その・・・・」
勇気を振り絞ってか細い声を上げる凛人。その直後に一哉の怒声によってかき消された。
「そろそろ大概にしろよ!てめ――――――」
「黛、警告だ」
「な、なんですか天宮寺くん」
一哉の怒声すらも無視して天宮寺は瞳の色を変えず、凛人を親の仇でも見るかのような目で見る。
その後、タオルを排水口のそばで凄まじい力で絞り、水気がかなり薄れたところで凛人に告げる。
「明日はすっこんでろ。しゃしゃり出やがたらモンスターとてめえを同等に扱うからな。意味は言うまでもないだろ」
「・・・・はは、それはおっかないな。でもさ――」
凛人と天宮寺とでは余裕で10cm以上の体格さがあるが、それでも言われっぱなしでは終わるまいと凛人は始めて対抗した。
「僕だけなにもしないのは、さすがに無理だよ・・・」
「黙れ、口だけ達者なやつにどうこう言われる筋合いはないが、俺の警告を無視するなら勝手にしろ。てめえの骨なんてだれも拾わねえだろうけどな」
脅迫じみた言い方を最後に、天宮寺は凛人と一哉を残して入浴施設を後にしていった。
「あー怖かったな。ねえ一哉、天宮寺くんって常にあんな感じ?」
「凛人・・・・・」
「なに?」
「あいつになに言われて絶対に気にするなよ!あいつは自分勝手が過ぎるが確かに強い。けど、だからって言う通りにする必要はどこにもからな!」
「ご心配ありがとう。でも僕のすべきことは、邪魔にならないようにすっこんでいることじゃないのは分かってるよ」
「そう、なのか?でも流石にあれは酷すぎた。俺の方からあいつに何か――――」
「いいよ。役に立たないかも知れないのは事実でしかないけど、それは天宮寺くんが決めることじゃないだろ?さ、のぼせる前に僕らもそろそろ上がろう」
「お、おう。待てよ凛人」
入浴施設を後にした凛人の胸には若干の不安と心配が残っていた。
いまだに実戦訓練については不安だらけだし、おまけに天宮寺という凛人を毛嫌いする班員まで現れた。
(ああは言ったものの、やっぱり不安しかないな~。天宮寺くん、怖っ)
不安要素はどんどん降り積もり、凛人は前夜でも当日の如く心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
そんな中で自分でも以外だなと感じたのは、天宮寺が言ったような、「本番では邪魔にならないようにすっこんでいる」という選択肢を全力で否定する自分がいたことだった。
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