第12話 休み時間
「やっと・・・終わった」
ようやく訪れた休み時間。
凛人は背もたれに全体重を預けて体を休める。
まだ一限目が終了したばかりだというのに、もうすでに体にも心にも疲労が感じられる。
理解が追い付かない魔法の勉強とはなんとも疲れるものだ。
もうすでに全ての科目を終えた後のような気分に酔いしれながら、凛人は呟く。
「初日で寝そうになるし、オセロで爆発の危機に晒されるし、こんな世界でやっていけるかな」
意味もなく空を眺めて「あ~あ、疲れる」と独り言を呟くのと、教室の扉が勢いよく開かれるのは同時だった。
「おぉーー?やっぱ上の空見たいにボケーっとしてるねぇ!!あたしの堪に間違えはなかったな。おおーい、凛人ぉぉ!!り、ん、と!」
「な、なんだとっ!!」
突然、元気な少女の声が凛人の耳をつんざいた。
あまりにびっくりして思わず振り替えると、クラス全員の視線を集めていたことに気づいて余計心臓の鼓動が早まる。
そんなことなど露しらず、凛人の名を大声で呼ぶ闖入者はニッと笑ってまた声を張り上げる。
「どうせ魔法とか魔力とかよくわからなくてあたふたしてたでしょ?まあ凛人なら無理もないよねぇ」
「だからお前は、時と場も弁えずこんなところで!こんなところで僕の名前を連呼するなよ日比谷!」
凛人は少女の元へと駆けつけ、早くこの口を止めなければなるまいと必死に抗言する。
だがあちらに止まる気はないらしい。
「なにその態度は。仮にもこの学校で一番付き合いの長い女子が訪ねてきてやったってのに。それとも、私より桔梗――」
「黙らっしゃい!何か話があるなら聞くから!早く場所を移すぞ!」
「えぇ~。ここですませればいいと思うけど?」
「こんな注目された状態で会話なんてできるか!」
「はいはい。わかったよ」
大慌てのまま、凛人はとりあえずその場から離れて時と場も弁えずに自分を呼んだ藍色の長髪の少女。
二年一組の
実は凛人と日比谷は中学からの同級生なのだ。日比谷自信は凛人のこと幼なじみと呼ぶほど関わりは深く、仲がいいかといわれればそれなりにいい。
とはいえ、休み時間に教室に突撃してくるなんて思わなかった。
一年の時はクラスが同じだったからそんな心配は無かったが。
「で、いきなり現れて僕に恥をかかせて休み時間が無駄になってしまいそうだけど何か用なのか?」
怒りマシマシの声で凛人は訪ねる。しかし日比崎は飄々としていて凛人へかけた迷惑について全く気づいていない。
「まあまあ落ち着いて。この後にでも桔梗に慰めてもらえば・・・」
「それ以上おちょくるなら魔法適正35の力、思いしらせてやるけど?」
「あはっ、魔法適正84でスキルもあるあたしにかなうとでも?鑑定の時、すごいショックを受けてたくせに」
「・・・・、で、話ってなんだ?」
「あーそうそう。凛人ってさ、桔梗のこと何か知ってることある?」
「知ってることあるって。昨日何度か会話したことと、倉山さんが祝福者に選ばれたことくらいだけだよ」
凛人は知っていることのみを日比谷に伝えた。その最中、「倉山さんが祝福者に選ばれた」と言った際に、表情が少し変わったのが少し気にかかり、何かあったのかを聞いてみた。
「なんで僕に聞くのかはわからないけど、聞いてくるってことはもしかして、倉山さんに何かあったか?」
すると日比谷は、なんだか少しだけ寂しそうな顔をして話す。
「うん。今日さ、桔梗が学校に来てないんだよね」
「え?・・・・なんで?」
「それについてはうちのクラスの担任になった、いかにも魔女です見たいな服装の若い先生も教えてくれなかったし、桔梗と結構仲がいい凛人なら何か知ってるかと思ったんだけどなー、」
「それってどういう・・・・つまり倉山さんは今は学校にいないって、ことか?」
「うん」
休み時間が終る、また授業が始まる。そんなしこうすら吹き飛び、凛人はあり得ないという思考のみが残った。
いかなる理由かは知らない。なのに、初めてこっちの世界で授業が始まるそんな大切な初日に倉山が欠席なんてあり得ない。
もっと疑問なのが、日比谷の話しによると、教師はその理由を黙秘しているということだ。
そのクラスを受け持ったなら生徒の事情くらいは認知しているはず。
言えないということは、本当に欠席の理由を認知していない。もしくは口外してはいけないような特別な理由があるのかもしれない。
その憶測が余計に凛人の不安を煽る。
「なんでこんな日に倉山さんがいないんだ。どうして」
「だ、か、ら。私はそれを知らないから凛人に聞いたんだけど」
「なら、逆に聞くけど鑑定の後から倉山さんにはあってないけど、日比谷は何か知らない?」
「さぁね。でもあたしは――祝福者が関係していると思う」
「祝福者が?」
どんな関連性を疑ったのか、日比谷が祝福者が関係していると疑い、いささか凛人は疑問に思う。
「どこに祝福者が関係しているか教えてくれないか?」
「まずさ、祝福者って神様に直々に選らばらた九人しかいない選ばれし者的なやつじゃん?それこそアドミス様だって声を大にした喜んでたわけだし、超すごいわけだからさぁ」
そこで日比谷は言葉を止めて、ゆっくりと深呼吸した後に真っ直ぐに凛人の目を見つめる。まだ何も言われていないのに、なぜか嫌な予感がした。
「ワンチャンだけどね、桔梗は異世界についても魔法についても初見だけど神様に選ばれたんだから、あたし達一般人と同じじゃなくて、もっと上のところで鍛えることになった。だから学校に来れなくなったんじゃ――」
「は?」
倉山桔梗が学校に来なくなるかも知れない?
もちろん日比谷が言っていることに一切の根拠は存在しない。
だが納得はついてしまう。それだけ祝福者がすごいなんて目の前ですでに実感している。
だから・・・黙ってなどいられなかった。日比谷が言ったことがそうかもしれないなんて受け入れることなど出来ない。
明日から倉山は学校で会えなくなるかもなど、納得できない。
自信と倉山とは特別な関係を築いているわけではない。
休み時間によく談笑して会話に花を咲かせたり、たまに登下校を一緒にする仲だ。
そして昨日は、昼休みにさんざんだった数学のテストのわからなかった所を教えてくれると約束してくれた。
つまりは友達だ。
だからなんだ。友達だろうとそれ以上の関係だろうと、疎遠になるなど納得できるものか。
「凛人?」
「日比谷はさ、本気でそう思ってるのか?」
「そんな訳ないじゃん!もしそう願ってるならこんな深刻な気分で言わないよ!」
「そうだよね・・・」
「凛人、私が言ったのはただの考察だから本気にしないでよ?きっと、今日だけ何かあったとか、もしかしたらたまたま風邪引いたせいで連絡手段がなくて先生の耳に入ってだけかも」
「うんそうだね。きっとそうだよ」
「でも桔梗早く帰ってきてほしいなぁ~。前の日にドーナツ奢ってもらったのにまだお返しできないんだから――」
「そろそろ二限目だ、早くしないと遅刻する」
凛人は踵を返して教室に向かうことにした。
「あっ、待って」と後ろから日比谷も着いてくきた。
「大丈夫、信じるよ」
教室に向かいながら凛人は呟く。
「きっと明日になれば、また学校に来るよね」
凛人が教室に着いて席に座った直後、二限目は始まった。
リカード曰く、次はこの世に存在する生物であるモンスターについての授業らしい。
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