第42話『運命を視る少女』
想定外の事というのは突然起こるものである。
「タツヤ!」
「うぉ! なんだ? って、エリスちゃん。なんでここに」
「引っ越してきたのよ! 今回の仕事は私達の力を使うかもしれないって」
「私達、って事は」
「はい。私達も居ますよ」
「最愛の妻を忘れちゃ駄目ですよ。タツヤさん」
走って来たであろうエリスちゃんの向こう側に見えた二人とさらにその向こう側にいる一人を見て、俺はなるほどと頷いた。
「ラナさん。わざわざこの子達の為に、ありがとうございます」
「いえ。私もタツヤさんのお手伝いに来たかったものですから」
ニッコリと笑うラナ様の手を取り、俺はラナ様に笑いかけた。
足元ではチビっ子が元気に俺の足を蹴ったり、殴ったりしているが、特に気にならない。
気にしてたら、チビっ子との生活なんてやっていられないからな。
「無視するな!」
「はいはい。悪かったよ。みんなも来てくれてありがとうな」
エリスちゃん、そしてミティアちゃん、アンちゃんと順番に撫でてゆく。
「こんな事で騙されないんだからね! あっ! 撫でるのを止めて良いとは言ってないわよ!」
「いやぁ。とは言ってもな。俺も手が二つしか無い物で」
「早く三つ目の腕を生やしなさいな」
「エリス様は無茶を仰る」
俺は苦笑しながら、三人を抱きしめて感謝を告げる。
そして、三人が向かうという小学校まで一緒に向かう事になった。
まぁ、小学校は中学校のすぐ隣にあるからな。
「しかし、よく産業医から許可が下りましたね」
「それは……」
「タツヤさんがこの世界に居ますからね!」
「ん? どういう事? アンちゃん」
「産業医さんはタツヤさんが無理をしない様に私たちに見張れと言っていました」
「もし次に無茶したら部屋に閉じ込めてやるって言ってたわよ?」
「おぉ……帰るのが少し嫌になったな」
「駄目ですよ。タツヤさん。このままいなくなったら寂しいじゃ無いですか」
「大丈夫ですよ。ラナさん。俺は必ずラナさんの元へ帰ってきますから」
「ギー!」
「ギャー!」
「君たち。もう人間の言葉を失ってるぞ」
いつもの様に俺の体をアスレチックの様にして遊ぶ、エリスちゃん達を支えつつ歩いていた俺だったが、向かい側からこちらへ歩いてくる女性が目に入った。
いや、女性というにはまだ幼い。
少女の様にも見える。
俺は思わず、その少女の姿を目で追ってしまい……。
「何か、ありましたか?」
「あ、いや。申し訳ない。つい気になってしまって」
「そうですか。まぁ、別に構いませんよ。私も兄や親友と共に居る事で、見られるのは慣れてますから」
「そ、そうですか」
「ですが、気に入りませんね」
「気に入らない……?」
「妙な連中をこの世界に入れないで貰いたいですね」
「っ!?」
次の瞬間、俺は意識が揺らぎ、倒れそうになってしまった。
そして、地面に膝を付きながら荒い呼吸の中で、静かに俺を見下ろす少女を見据える。
「警告は一度だけですよ」
少女はそう言うと、冷たく……静かに俺を睨みつけた後で去って行った。
少女が居なくなってから少しして、どうにかまた立ち上がれる様になった俺は少女が去って行った方を見たが、そこには当然もう姿はなく、まるで白昼夢を見ていた様な気になる。
しかし、心配そうに俺に抱き着いているエリスちゃん達や、まるでとても怖い物を見たような顔をしているラナ様がいるのだから夢では無いのだ。
「タツヤ、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ」
「何か怖い人でしたね」
「そうだね」
俺は大きく息を吐いてから立ち上がり、青い顔をしているラナ様を見据える。
「ラナさん。大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫、とは言い難いですが、大丈夫です」
「あの子の事、何かご存知ですか?」
「いえ……分かりません。でも、会社の方ではないと思います」
「そうなのですね」
「はい。ただ、会社の方ではありませんが……会社に居る方以上に凄い力の気配を、いえ。恐ろしい気配を感じました」
ラナ様の物言いに、俺は何となくスポンサーの存在に思い至った。
そして、まさかとは思いつつも、アーサー達に一応情報を伝えておくのだった。
空き教室でアーサーやチャーリー、ハリーと話をする。
今朝出会った人の事、そして最近感じている違和感についてだ。
「んー。妙な女性……いや少女か。俺は知らんなぁ」
「そうですね。私もちょっと知りませんね」
「うん。僕もだ」
「そっか。知らんか」
「でも、ラナ様の感覚はかなり信用出来るだろう。もしかしたら、アレが居るのかもしれないな。この世界には」
「アレか」
「以前飲み屋で話していたアレだな」
「あぁ、そうだ。という事は何かしら対策をする必要があるんじゃないか?」
俺はとりあえず提案をするが、反応は何ともという所だ。
「俺は前も話した通り、スポンサーには逆らわない方針だ。勝てる訳もない戦いは好きじゃ無いからな」
「私も同じですね。例えどんな状況になろうとも、スポンサーに逆らうべきでは無いと思います」
チャーリーとハリーは頷きながら、想定通りの答えを言い、俺もその答えに頷いた。
そして、アーサーもまたチャーリーやハリーの様に笑いながら、椅子に座り足を組んだ。
「そうだね。僕らの活動はスポンサーあってこそなんだから、そのスポンサーが何をしていようと僕らが気にする事なんて何もないと思うよ。僕も、チャーリーやハリーと同じ意見さ」
「お前ら……」
アーサーはいつもの穏やかな笑みを浮かべながら、そう告げて、そして椅子から立ち上がった。
「そもそもさ。タツヤ。先ほど違和感があると言っていた事もそうだが、正直な所、君の気のせいなんじゃないかと僕は思ってるんだ」
「……なに?」
俺は苛立った様な声を出しながら、一歩アーサーへと進んだ。
そしてアーサーの肩を掴みながら、アーサーを睨む。
しかし、アーサーはそんな俺の手を振り払うと、一つ大きな息を吐きながら、言葉を紡ぐ。
「だってそうだろう? 君以外は誰もそんな違和感なんて何一つ感じちゃいないんだからさ」
「そうかよ」
「ま。どうしようもないなら、花にでも話してみれば良いんじゃないか? 花なら君の話を聞いてくれるだろうさ」
「はぁ。分かったよ」
俺はこれ以上三人と話すのをやめて、一人教室から出て行く事にした。
なんて事はない。
これ以上話すのが無駄だからだ。
そして、家に帰り一人どうするかなと考えていた。
どちらにせよ、まずは違和感の正体……。
おそらくはスポンサーを見つけなくては話が始まらないのだ。
俺はスポンサーが居るという確証を見つける為の方法を考えて、家の窓から星空を見上げた。
「タツヤ」
「……母さん」
「どうしたの? 何か悩み事?」
「まぁ、ね」
「お母さんには話してくれないの?」
「思春期の悩みって奴だからさ。まぁ、放っておいてくれると嬉しいかな」
「そう?」
「うん」
俺は母を追い返して、星空を……って、ちょっと待て。
何でこの世界に母さんが居るんだ。
だって、母さんは、もう……。
「ふふ。大丈夫よ。お友達と喧嘩しても、すぐに仲直り出来るわ」
「……あぁ、そうだね」
そうか。
そうだよな。
確かにそれは、そうだろう。
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