第34話『幼馴染との回想』
生きるという事はなんだと思う?
それはね。自分が自分のままそこに存在しているという事なんだ。
自分を捨てて、道具の様になってしまえば、生きている等と言えないだろう。
「言い残す事はあるか? この野郎」
「野郎だなんて酷いな。僕はこれでも立派な女だよ」
「あぁ、そうかい。じゃあ言い方を変えようか。地獄に行く準備は出来ているな? このクソ女」
「おいおい。クソ女だなんてひどいじゃないか。僕はこれでも、純朴な一人の少女だというのに」
「純朴な一人の少女はフェレット使って、子供には見せられない遊びはしない。それで? 言い残す言葉はそれで良いんだな?」
「ま、待ってくれたまえ! 暴力は良くない! 話し合いで解決しようじゃないか。ほら、僕らにはこうして語り合う言葉があるのだから!」
「その言葉を最初に封じてきたのはお前だけどな?」
「わ、分かった! なら僕の初めてをあげようじゃないか! この天才の物だぞ! 実に嬉しい事だろう!」
何を言ってんだ。このカスはと思いながら俺は、目の前に居るアホの顔を見る。
少なくともそれで喜ぶような者なら、フェレットプレイをしている最中にも喜んでいたはずである。
しかし、そうはなっていない。それがただ一つの真実だ。
「言い残す事は……」
「ま、待て! 待ちたまえ! まだ不満なのか!? 何という事だ。この天才を孕ませる可能性があるというのに、その権利では足りないというのか。信じられない強欲だな。君は」
眼鏡を人差し指であげながら、いつものドヤ顔で、ふふんと笑いながら、アホは更にアホを重ねるべく口を開く。
「では仕方ない。三回だ! 三回までなら許してやろう!」
「なーんーで、お前が許す側なんだー? あぁー?」
俺はアホの頭を掴み、締め上げる。
デモニックヒーローズに入ってから鍛えに鍛えた俺の握力は、80キロを超えた。
つまり、リンゴを潰せるようになったという事である。
これで、憧れの少年漫画ごっこも出来るという訳だ。
「い、いだっ、あだだだ!! て、天才の頭脳が、潰れる!!」
「あぁ、実に残念だ。美倉莉子。同郷だったお前をここで失う事になろうとは……」
「くぁ! そ、そんな覚悟はしなくて良い! わ、分かった、分かった! 君の要望を飲もうじゃないか!」
「はぁ?」
俺はとりあえず莉子を解放しつつ、冷めた目でアホを見下ろす。
「ふ、まったく。素直じゃない男だ。ま、君は学生時代からそうだったがな」
「……」
「つまり、君は私自身が欲しいという事だろう? ま。幼い頃から君は僕をやたらと凡俗の中に入れたがっていたからな。そうやって! 弱った僕を自分のモノにするつもりだったのだろう!」
「はぁ」
俺はため息を吐いて、近くの椅子に座り、床に転がっている幼馴染を見据えた。
「俺がお前に友達を作ってやりたいと思っていたのは、お前が一人で生きていく事が出来ないと考えていたからだ」
「ふん! そんな嘘に僕が騙される訳がないだろう! 君が居るのに、なんで僕が一人で生きていく事なんて考えなければいけないんだ!」
「いや、俺が居なくなる事もあるだろう。真実、この会社に来たことで、前の世界から消えた訳だしな」
「その程度の事で天才の僕がどうにかなると思ったのか!? 世界を超える方法くらい見つけ出してやるさ!」
「その情熱を、他の友人を作るとか、恋人を作るとかに向けろよ」
「嫌だ! 僕はこれ以上人間関係なんて無駄な事に時間を使いたくない! そういうのは幼少期に全部やったからな! これから先の僕の人生はもっと有意義であるべきだ!」
「お前は何もやってないだろ。俺が全部やってやったんだろうが。というか、それならなんで俺とは友達やってたんだよ」
「君は僕の人生をより輝かせるために、必要な人間だからだ! 僕の人生の全ては研究に向けられるべきだからね。それ以外の煩わしい事は全て君に任せる。そうする事で僕たちは完璧な存在になれる! そうだろう!?」
「そうだろう? なんて言われてもな。別にそれは俺じゃなくても良いだろう」
「何を言っているんだ! そんな訳無いだろう! 僕が世界にとって必要不可欠な存在であった様に! 君も僕にとって必要不可欠な人間だったんだ! だというのに、勝手にこんな世界へ来て、挙句僕との連絡を絶つだなんて。信じがたい暴走だよ!」
「……」
「しかし、今回の事でよく分かった。つまり、君は不安だったわけだな。自分という存在が世界にとって必要なのかどうかが分からずに」
「……!」
「やれやれ。まったくしょうがない奴だなぁ、君は。分かったよ。僕の負けだ。僕と結婚させてあげよう。これで満足か? 子供は、まぁタイミングを見てだが、君が望むのなら一人くらいは考えてやっても良いぞ」
「……はぁ?」
「それほど心配しなくても僕は君の傍に居てやるというのに。確かな形が無いと不安というのは、何ともまぁ。昔、君と見たあのくだらない恋愛映画の様だが。良いだろう。君がそういう形にこだわるというのであれば」
「言っておくが、俺はもう誰かの為に生きるのは止めただけだぞ。だからお前の面倒を見てやるのも止めたんだ」
「何を言っているんだ! 君が居なかったら誰が僕の服を洗うというんだ! ご飯だってそろそろ外の物は飽きたぞ!」
「自分でやれ」
「な、なに? いや、待て。おかしいぞ」
「おかしかないよ。俺はお前の道具じゃない。この世界に来て、俺は自分の居場所を見つけたんだ」
「それは僕の隣だ!」
「んな訳ないだろ。というかそういうのを止めたという話を今してるんだ」
「なんだそれは! どういう事だ! 意味が分からないぞ! 君は僕に死ねと言っているのか!?」
「そんな事を思ったことはない。確かに子供のころはお前に救われてた部分もあるからな」
「なら!」
「でも……俺は変わったんだよ。気持ちも居場所も夢も何もかも」
「そんなぁ……」
「いや、泣くなよ。泣くような話じゃないだろ」
「ぐずっ、だって、約束したじゃないかっ! 僕ら三人でこんな世界は変えてやろうって! 僕らみたいな人間でも生きやすい世界にって、でも、そんなのずるい! 自分だけ……」
「悪かったって」
「おかしいぞ! 君! 昔は僕らしか居なかったのに! この世界に来てから、女を侍らせて!」
「いや、別に侍らせた覚えないが……しかも多分世話してるの俺だし。お前含めて……って、ちょっと待て。三人? 三人ってのはどういう事だ。莉子」
「え? 三人は三人だろ? 人数も数えられなくなったのか?」
「違うわ! 俺は、俺は前の世界で、お前以外に親しくなった女は居ない。親しくなっても一緒にいるお前の奇行で離れていったからな!」
「は? 僕と結婚したいって話か? 子供が二人は欲しいって話か? 僕は手伝わないぞ」
「そんな話はしてない! 莉子。お前今、言っただろう? 僕ら三人で世界を変えてやると約束したって、その三人目ってのは誰だって聞いてんだよ!」
「そんな事急に言われても……えと、誰だっけ? タツヤ。僕は人の名前を覚えるのが苦手なんだ」
「いや、お前しか分からない事が分かる訳無いだろ……というか、そう考えたら、その約束ってのは俺以外の誰かとやったんじゃないか?」
「そんな訳無いだろ! 僕がタツヤ以外と話がまともに出来ると思ってるのか!?」
「まぁ、確かに。お前、この会社でも誰とも話せてないもんな」
「当然だ。僕を誰だと思っている」
「社会不適合者」
「僕に社会が合わせるべきなんだ!」
「話にならん」
「僕にタツヤが話を合わせてよ!」
「……」
「おい! 無視するな」
「お前と話してて、ちょっと気になる事が出来た。すまんが話の続きはまた今度な」
「おいー! 僕のご飯は!? 洗濯と掃除はどうするんだ!」
「飯食いたきゃ俺の部屋に来い。なんか食わせてやる」
「むふー。分かった。今回はそれで許してやる」
俺はまだなんか言ってるアホを置き去りにして、俺の世界に詳しいであろう人の所へと向かった。
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