8 お姉さんは猪突猛進
俺たちは馬車に揺られながら『ユスラム』への旅を続けてる。
助けてやるから、乗せてけよ。
簡単に言うと、そんな取り引きだった。
馬車の積荷は、横転したせいで殆どが使い物にならないって事で、廃棄する事にしたらしい。
風を感じながら、振動も感じるのは、なかなか良いものだ。
どことなく、この商人は俺たちの事を察してくれたのか、あれ以降あまり質問責めにはして来ない。
「生きてればまあ色々あるよな?」
と、気付けば商人の口調もやや変わり、フランクな感じで話してくれている。
案外、人当たりも良くて、気立の良い中年おじさんみたいな感じだ。
「変に敬語で話さなくて良いんだ!子供は子供らしく……」
てな訳で、今となっては最早敬語どこいった?になってしまった。
貴族家で過ごして来たし、これまで付き合って来た連中も同じく貴族家だったから、こういう感じで話せるのはなんだか新鮮な気もするし、決して嫌ではない。
それでもだ。
レティを見る目は、男を感じてしまう。
うん。
やはり、俺と同じ事を感じてるに違い無い。
だって、レティをひと目見た時、俺の時間が止まった。美少女過ぎて。
この商人もきっと同じなんだと思う。
ただ少し、ほんの少し、
――なんだろ?この気持ち。
その本人はと言うと、
俺の膝の上でよだれ垂らして寝ている。
寝顔も勿論、この上無く可愛いのだ。
時折、『念話』を介して聞こえてくる寝言。
やはり、馬車は良いものだ――。
ちなみに、この商人の名は ロガール さん。
彼いわく、『ロガー』って呼んでくれとの。
で、自己紹介をする上で、念の為、俺のアルフォンスの名は伏せておいた。後々、厄介な事になるのも嫌だし、家のゴタゴタに巻き込みたく無かったからだ。
ここからは『ユスラム』についての講義だ。
「……で、ルディたちは『ユスラム』に行くのは初めてなんだよな?」
そう話しながら、ロガーさんは俺の方をチラチラ見ながら馬に鞭を打つ。
「うん。『ユスラム』ってどんな街なの?」
「おう。まあ色々あるが、……ううん。強いて言うなら……、色々あり過ぎて迷うな。まず、色んな種族が一緒に生活してる。それに差別が無い、ってのが俺は一番良いと思ってるとこだな」
「……色んな種族……。さっき言ってた人族や獣族、それにエルフ族が。って事?」
「おうよ!どっかの国に行きゃあ、あの種族はああだから云々とか一切ねえ!分け隔て無くってやつよ。移入も大歓迎、駆け出しの冒険者も大歓迎!そんなとこよ」
「誰にも優しいって事だね」
「まあな。俺は商人だからよ、色んな都市行ったり街にだって行くんだよ!転々とするってやつだ。商売上仕方ないんだけどな。それでもだ!『ユスラム』みたいなあんなに過ごし易い街、他に見た事ねえなあ」
「……なら、俺も受け入れてくれるのかな?」
「あったりめえだろ!他所者とかまったく気にしやしねえ街よ。……ところでよ、ルディは今後何やりてえんだよ?」
これまでの質問の中で、一番回答に困った。
そう言えば、考えた事無かった。
家を追放される前まで、貴族として『貴族としての心構え』みたいな感じで、貴族らしい振る舞いやら、ダンスやら剣術やら。
うん。俗に言う、『本音と建前』ってのを学んできただけだ。
この先俺は、何をやるべきなんだ?
何が出来るんだろう?
下級職の『鍛治師』でゴミスキルって馬鹿にされた『鑑定』で、そんな俺に何が出来るんだ?
膝で寝てる、こんな俺と従属契約を結んだレティには悪いんだけどね。
「……ううん?俺なんかに何が出来るんだろ?」
首を傾げて、まるで自問自答してるような、ちぐはぐの答えで返した。
「何言ってやがる?たったひとりでゴブリンの群れ倒すくれえの腕あるんだからよ。ルディくれえの腕あるんなら、騎士にだってなれるんじゃねえか?それか、ご立派な上級冒険者だって悪くないだろうよ」
腕があると言うか、レティのお陰なのだが。
レティのスキルとか能力を生かして、騎士になるのだって悪くはないかもしれない。
だけど、どこぞの国で騎士になる。となれば、おのずと家のゴタゴタ問題が出て来そうな気がする。
だから、冒険者になるってのは良いかもしれないな。
「騎士になるのは少し気が引けるけど、冒険者になるってのは良いかもしれないね」
「ルディが冒険者になるってんなら、依頼出させてもらうぜ?」
「……依頼?」
「おう!俺の場合、商人だからよ、商人ギルドってやつに加入して商売してんだよ。冒険者ギルドってのもある。依頼ってのは仕事みたいなもんだな。それに階級もあれば、加入する時試験だってある。けど、試験さえクリアしちまえば誰でも入れるつう感じよ!だから割と訳ありって奴も中にはいる――」
うん?
俺って案外、万能なんじゃないか?
レティの能力活かせれば、冒険者としてやっていけるだろうし。
それに、『鑑定』スキルであわよくば商人にだってなれるかもだし。
うううん。下級職の『鍛治師』が活かせる何かがあればもっと良いんだけど。
『鍛治師』って言っても、そもそも鍛治なんてやった事ないしな。
冒険者くらいがちょうど良いかもしれないな――。
そんな話しをしてると、街が見え来た。
「おうルディ!見えて来たぞ『ユスラム』が。もっと話してえ事沢山あったのになあ。ちっ!しゃあねえか。あっ、そう言えば重要な事があったんだよ」
「……あれが『ユスラム』?……つか、重要な事?」
「ああ、そうだ。あれこそ自由の街『ユスラム』だ!おっと、重要な、こ、とっ……つうのは……ギルド加入してないお前さんたちは、入場料がかかるって事だ。まあ一応助けて貰ったし、お礼って言っても少ないかもしれないが貰ってくれ」
ロガーは硬貨が入った袋から銀貨五枚取ってルディに手渡した。
「助けて貰ったし、ここまでの護衛料つう事で受け取ってくれ。こんくらいあれば、入場料引いても飯代や宿代くらいにはなるだろ」
「えっ……こんなに?……ありがとう」
どこか名残惜しそうな感じで、顔中のシワを寄せて笑ってる。ふとルディの膝で気持ちよく寝ているレティの様子を見て、「もう着くから起こしてやんな」の合図だった。
段々と街に入る前の関所が見える。
そこから続く石畳調の長い大通り。大通りを行き交う数多くの馬車。
見た感じだと、流石に王都とまでは行かないけど、結構栄えてるのが分かる。
その中でも目立つのは、大きな看板を掲げる建物だ――。
『――マスター・ヴォルクス・スミス工房――
――見習い職人、大募集!!――』
「……マスター・ヴォルクス……工房?」
ルディがそう呟くと、ロガーはその建物を指差してテンション高めで説明する。
「ありゃあ、『ユスラム』で一番人気の武具生産メーカーだ!一度くらいは聞いた事ねえか?相当有名だぜっ!?あそこの武具を持てるようになれば
「……へええ。鍛治師として将来お約束ねえ……」
「いやなあにっ!ルディにはあんま関係ないとこだろ?ルディには冒険者とかがお似合いなんだからよっ!?……将来お約束とか言ってもな、一人前になるまで相当時間掛かるって話しだぜ?下手したら十年、……いや、もっとかもな!?」
そうこうしてる間に、関所の前に立つ門衛の位置まで来ていたところだ。
「なんだっ!ロガーさんじゃあないですか?長旅お疲れ様でした。……今回はどちらまで?」
「いやあ参った参った!今回は赤字も赤字!大赤字だわあ!ちょいと『王国ハイデリン』手前の街まで行って、帰の道中でな、ゴブリンに襲われちまってこの有り様よ!?」
門衛がロガーの側に寄ってきた。
ロガーとその門衛は慣れた様子で会話している。
と、門衛の視線がルディたちに送られた。
「……ロガーさん、お連れさんですか?」
ロガーはルディたちを紹介するように、なにやら説明し出す。
「ちょいと恥ずかしい話しなんだけどなっ……襲われた時、この二人に助けられたんだよ。んで、一緒に来た。って話さ!」
「……なるほど……この二人にね?見たところまだ子供……。ロガーさんでもそんな事あるんですねえ?」
門衛の目はまじまじと二人を凝視して、様子を確認しているようだ。
「さては、馬鹿にしてんな!?」
「いやいや……そんな事ないですよお」
門衛は手を左右に振って、慌てて否定している様子だ。
「この二人、まだギルド加入してないから……入場料払わんといかん。お願い出来るか?」
門衛はこくりと頷き、馬車に乗ったルディの方に歩み寄る。
俺はまだ寝ているレティに、肘でこんこんと押して起きるよう合図する。
「『ユスラム』へようこそ!ロガーさんを助けてくれたんだってな?ありがとな坊主。悪いが決まりなんでな」
その門衛は、すまなそうに入場料を催促する。
見たところ三十代前半といった雰囲気である。
無精髭を生やして、両手剣を腰に携えて鎧を纏っている。
すっきりとした輪郭、割と顔立ちは良い。
元冒険者か、あるいは元騎士団。を、想像させるような
――女にモテそうな見てくれだ。
「お幾らですか?」
「銀貨一枚だ……」
ルディは先ほどロガーから貰った銀貨のうち、一枚取り出して門衛に渡す。
そこから、『入場許可証』と書かれた紙切れを手渡された。
「今日から一週間有効だ。ギルド加入しないで、それ以上滞在するなら追加料掛かるからな。注意しろよ」
と言われるなり、ルディたちは馬車を降りて門まで向かっていくところ。
「じゃあなあ、本当ありがとよ!なんかあったらいつでも『ロガール商会』に来てくれ!力になるぞお!!……まあ、この街でやりたい事やれば良いさ!?」
ロガーは「またな」と敬礼して、別れの合図を送った。
ロガーはこのまま馬車を預けに行くらしい。
こうして、ルディたちはロガーと挨拶を交わして別れた。
――そして、門衛に見送られながら、関所を
「やっと、やっと手に入ったわああぁ!!念願だった『ヴォルクス製』の武器。あああぁぁ!誰もが憧れるって言う……感激!感激だわああぁ!試し切り、試し切り、試し切り行きましょおおおおお!!」
大声を叫びながら、門の方へと走ってくる少女――?
お姉さん?
……って、あれっ?
えっ――。
このままじゃあ、きっとぶつかる――。
「ちょっとそこ、どい……てっ!…………痛ったあああああ!!」
◇◆◇◆
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