第23話

伊織は時々、練習に怪我をして入ってくることがあった。



バスケ部の先輩たちと街ですれ違い、喧嘩になってしまったり、あるときは先輩たちがしていた万引きの現場に居合せ、罪をなすりつけられたこともあった。




中学では悪い噂が広まり、洋一たちは白い目で見られる。




そんな中でも、生徒会長の玲蘭だけは違った。




『朝比奈くん。おはよう。』



『おう。おはよう。雨宮。』




伊織にも笑顔で挨拶をしてくれていて、洋一はその返事をする伊織に昔の面影を見出すことがあったのだ。




だから、さりなとのことは洋一は心配していた。




現にさりなの中では、どんどん鬱憤が溜まっている。




朝の出来事を見かねた洋一は伊織を屋上に呼び出した。




「洋。どうした。」




「さりなのこと、どうすんの?」




「どうするって.......?」




「好きでもないのに、付き合ったりして。」




「だってそうしないとバンドやらねーっつーんだから仕方ねーじゃん。」




「伊織!」




「俺はあいつの歌に惚れ込んではいるけど、あいつ自身には恋愛感情は持てねーんだよ。



それが我慢できないなら別れるしかないけどな。」




「あんまりだぞ、伊織。」




「なんでだよ。交換条件提示して半分脅しのように交際迫ってきたのはアイツだろ?なんで俺が責められなきゃなんねーんだよ。」




確かに伊織の言うことも一理あると思った洋一はそのまま何も言えなくなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る