第12話 ド派手なスーツで人生逆転!

「すみませーん! 宝くじが当たったんです! だから、めちゃくちゃ派手なスーツを作ってほしいんです!」


店の扉を勢いよく開けて入ってきたのは、派手な色のTシャツにスウェットパンツという、まるで宝くじの当選金を一気に使ってしまいそうな軽薄そうな男だった。彼は大げさな手振りで、当選を喜びながら数子に話しかけた。


数子は彼を一瞥し、やれやれと肩をすくめた。


「おいおい、ここは派手好きのパーティーピープルの集まりじゃないよ。宝くじに当たったからって、なんでそんなに浮かれてるんだい?」


男はにやにや笑いながら、大きな手提げ袋から宝くじの当選証書を取り出して見せつけた。


「見てください、これ! なんと、一等が当たっちゃったんですよ! だから、もうすっごく目立つド派手なスーツを作って、街を歩きたいんです!」


数子は彼の手元を見ながら、ため息をついた。


「ふん、なるほどねぇ。お金が手に入ったらまずスーツか…。アンタもなかなか変わってるね。で、どんなスーツが欲しいんだい? 具体的に言ってみな」


男は目を輝かせ、まるで幼稚園児が自慢するような勢いで話し始めた。


「とにかく、全身がピカピカ光るようなスーツで、金と銀をふんだんに使って、スパンコールもたっぷり付けてほしいんです! 誰もが振り返るくらい派手なやつ! それに、豪華なネオンみたいなデザインも入れて、みんなをアッと言わせたいんです!」


数子はその言葉を聞いて思わず笑い出した。


「ははは! アンタ、まるでクリスマスツリーになりたいみたいだね。そんなスーツ着て街を歩いたら、通報されるのがオチだよ。でも、ま、やってみようじゃないか。宝くじに当たったくらいで調子に乗るなって教えてやるよ」


男は目を輝かせながら頷いた。


「やった! 数子さんなら、きっと僕の夢を叶えてくれるって信じてました! これで、俺の人生はバラ色だ!」


「ふん、バラ色ねぇ…。まあ、そのスーツがアンタの人生の何を変えるかは知らないけど、派手なもん作ってやるから文句はなしだよ」


数子は棚からギラギラと輝く金と銀の生地、そして色とりどりのスパンコールを取り出し、ミシンに向かって作業を始めた。彼女は特別な光沢加工を施し、あらゆる角度から光を受けるとキラキラと輝くデザインに仕上げていく。さらに、ネオンカラーの糸を使って、スーツ全体に豪華な模様を刺繍した。


「まるでお祭りの衣装だね。これで満足しなきゃ、どうしようもないよ」


数子は時折笑いながら、細かいディテールにまで気を配り、全身がまるで宝石のように輝く特製スーツを完成させた。数日後、男が再び店に現れると、数子は誇らしげにスーツを手渡した。


「さあ、これがアンタのためのド派手スーツだ。これで街を歩けば、確かに誰もが振り返るよ。警察も含めてね」


男は興奮しながらスーツを受け取り、更衣室へと駆け込んだ。しばらくして、男が姿を現すと、店内がまばゆい光で満たされるように輝き出した。全身がピカピカと光を反射し、まるで動くミラーボールのようだ。


「これだ! これこそ、僕が求めていたスーツだ! すごい…これを着て街を歩けば、みんなが僕を見てくれるに違いない!」


数子は目を細めながら、彼を見て笑った。


「ほう、アンタ、クリスマスツリーにしてはなかなか格好がついてるじゃないか。でも、街を歩くときは眩しすぎて迷惑にならないようにな。さもないと、交通事故でも起きたら大変だよ」


男は大笑いしながらサングラスをかけた。


「大丈夫ですよ! 数子さん、このスーツを着て、今度のパーティーでみんなを驚かせるんです! これなら、誰にも負けない!」


「そりゃあ負ける奴なんていないさ。アンタのその輝き、会場中が驚くどころか、目が痛くなっちゃうよ」


男は感謝の言葉を繰り返しながら、スーツを着たまま店を出て行った。その後ろ姿は、まるで街の中に一つの太陽が輝いているようだった。数子はその姿を見送りながら、ふっと息をついた。


「まったく、あのバカがあのスーツを着てパーティーに行ったら、みんな目が眩んで倒れるんじゃないかねぇ。でも、まあ、夢を持つのは悪くないさ」


それから数日後、数子の店に再び男が現れた。今回は、スーツを丁寧に畳んで持ち、どこかしおれた表情をしている。


「どうしたんだい、あの派手なスーツ、飽きちゃったのかい?」


数子は彼を見上げて尋ねた。男は苦笑いしながら、話し始めた。


「いや、あのスーツは最高でした! パーティーでも大注目で、みんな僕に話しかけてきて…。でも、なんか…僕、ちょっと調子に乗りすぎちゃったみたいで」


「ふん、やっぱりね。アンタ、いくら目立ちたくても、度を超しちゃいけないよ」


男は頷き、真剣な表情で続けた。


「そうなんです。みんなの注目を集めたのはいいけど、後で思ったんです。本当に僕が見せたかったのはスーツじゃなくて、自分自身なんじゃないかって」


数子は驚いた表情を見せ、笑みを浮かべた。


「ほう、なかなかいいことに気づいたじゃないか。スーツはあくまで表面を飾るものだからね。アンタの本当の輝きは、その中身で決まるんだよ」


男は深く頷き、スーツを数子に差し出した。


「数子さん、本当にありがとうございました。このスーツは、僕に大切なことを教えてくれました。これからは、もう少し地に足をつけて、自分らしく生きていこうと思います」


数子はスーツを受け取り、微笑んで彼の肩を叩いた。


「それでいいさ。宝くじに当たったくらいで浮かれてるより、もっと大事なことがたくさんあるからね。でも、スーツが必要になったら、いつでもまたおいで。今度は、アンタの本当の姿を引き出せるスーツを作ってやるよ」


男は感謝の言葉を述べ、穏やかな笑顔で店を出て行った。その後ろ姿を見送りながら、数子は再びミシンの前に座り、微笑んだ。


「さて、次はどんなバカな夢を持った奴が来るのやら…。スーツ作りも、なかなか人生の勉強になるもんだね」


彼女の店には、今日も新しい物語が生まれようとしている。数子と個性的な客たちの笑いと感動のスーツ作りは、まだまだ続いていく。

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