第18話 魅惑の姫様(7)
千代がぷりぷりと頬を膨らませると、正道は再び愉快そうに笑った。
「すまん、すまん。それで? その無礼な男を罰してくれと、そういう事か?」
正道の言葉に千代は首を振る。
「いいえ。そんな事をしても、逆恨みを買うだけですわ」
「では?」
正道が問いかけると、千代はその場にいる全員の顔を順に見回した。
「わたくしは、三日後、あの男がこの屋敷へやって来た時に、ぐうの音もでないくらい完璧に言い負かしてやります」
千代の言葉に大人たちは三者三様の声をあげる。
「何か策があると言うことだな」
「また……その様に見苦しいことを」
「流石、姫様。肝が座ってるなぁ」
そんな大人たちに、千代は自信ありげな表情で頷いて見せると、静かに言った。
「お父様は明日、お奉行様にお会いして下さい。最近、渡来品の杯を買ったか、あるいは売りに来た商人がいたか、聞いてみてくださいませんか?」
「うむ。それは良いが何故そんなことをするのだ? 今回割れてしまった杯は、お奉行様が取り寄せた品なのだろう?」
正道の質問に、千代は頷いて答える。
「あの男はそう申しておりましたが、少々解せぬのです。そもそも貴重なお品を化粧箱にも入れず、風呂敷包みだけで運ぶでしょうか?」
「なるほど。其方は、その者が嘘をついておるとそう言うのだな」
千代は正道の言葉に大きく頷いた。
「ええ。そもそも嘘であれば、虚偽を働いた者の言うことなど聞く必要がありませんから。ですから、まずはお奉行様にお話を伺って頂きたいのです」
「あい分かった! 父に任せておけ」
正道は力強く頷いて見せた。
千代と正道のやりとりを黙って聞いていた高山が、わくわくとした様子で千代に問う。
「姫様。俺も何かお手伝いをさせて頂いても?」
千代は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ええ、もちろんですわ。高山のおじ様には、渡来品を扱う商人を探して頂きたいのです」
高山は少し意外そうな顔をする。
「それは構いませんが、どんなお品物を探してくればいいので?」
「品は探さなくても良いのです。そもそもわたくしも、陶器の杯としか知らないので、同じ物など探しようがないですから」
高山は首を傾げる。千代の言っていることがよく理解出来ないといった顔だ。そこへ太郎が助け舟を出す。
「父上。姫様は奴がどのように渡来品を手にしたのかを知りたいのです。渡来品となるとこの辺りで簡単に手に入るようなものではない。つまり、奴にそれを売った者がいるはず。その者を探すのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます