第5話 それで私の体を見たわけ?
「それにしても冒険者だなんて本当に私たち異世界に来てたのね」
「異世界に来たところで…。誰かさんのせいで俺が宿代を全部払うハメになったんですよー」
ベルさんに渡された地図を見ながら、俺と優香さんはギルドに向かっていた。
この世界に来て初めて街に出たが、とても賑やかで雰囲気の良い場所だった。
昼間っから飲んでるヤツもいるのかよ……。
「なかなか楽しそうな街ですよね」
そう思いませんか?と言うかのように横を向くと、隣を歩いていたはずの優香さんがいなくなっていた。
初めて来た土地だから迷子になったのか⁉︎
だからあれほど手を繋ごうと言ったのに!
慌てて辺りを見回していると、うしろから俺の名前が呼ばれた。
「すごいよ、京介くん!このゲームに勝ったら十万ゴールドが貰えるのよ!」
「優香さん、そんなギャンブルみたいなことはしないでくださいよ。今の俺たちは金が無いんですから」
「えー、けちー」
見るからに怪しそうな老婆が手招きをするが、それを無視して駄々をこねる優香さんを抱え上げた。どう見てもこれは詐欺だろ。
店や婆さんの着てる服がボロボロだ。
そんなのが十万なんて出すはずがない。
どうせ挑戦料をとって逃げるんだろ。
「優香さん、俺たちはギャンブルやるような金はないんですよ」
そんな俺に、婆さんは呟くようにボソッと言う。かすれて少し聞き取りづらい声だった。
「青年よ。一度やってみたらどうだい?今回だけ代金はサービスしてやろう」
「そうだよ、京介くん。試しに一回だけ!」
「…一回やったらギルドに行きますからね」
どうしてもと言われ、しぶしぶ挑戦することにした。どうやらこのゲームのルールはとても簡単だが、今まで勝者は一人もいないらしい。
隣で目を輝かせている優香さんには申し訳ないが、確実に負けるだろう。
数枚のカードの中から指定された一枚を取れと言われたが、本当にそのカードはあるのだろうか。そんなことを考えながら、カードを混ぜている老婆の手を眺めた。
——今カードを一枚地面に捨てたけど使わないのか?
「準備できたよ。ほら、取りな。女神様の絵が描かれたカードだよ」
差し出されたのは六枚のカードたち。
どのイラストが描かれているかはこちらには見えないようにされている。
どうにかして中が見れたらいいんだが……。
しばらく考え、俺はあることを思いついた。
「……その中には無いんだろ?そりゃあ勝てないよな」
「それなら、どこにあるって言うんだい?」
「そこだよ」
カードを混ぜているときに地面に捨てられた一枚を指差し、裏返してみた。
案の定それに描かれていたイラストは女神。
「誰も差し出した六枚のカードの中から選べなんて言ってないもんな」
「——頭のキレる冒険者だ。完敗だよ」
老婆は金貨で大きく膨らんだ巾着を出し、その場を去ろうとする俺に言う。
「お主には女神様のご加護がついているよ」
「そりゃどうも」
うしろの老婆へ手をひらひらと振る俺に、優香さんがあることを訊いてきた。
「よく女神のカードが無いなんて分かったわね。私なら騙されてたわ」
「実はあれ、スキルでカードを透視しただけですよ」
「あんたそれで私の下着を見たわけ?」
「…知らないですね」
隣で怒る優香さんを置いていくかのように歩く速さを上げ、ギルドに向かった。
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