にゃんにゃんにゃん

第1話

幼い頃の俺と君


小さな約束をした




「よーちゃん!


よーちゃんはぼくにおてがみ書いて!


ぼくはよーちゃんにおてがみ書くから!


そんでね!


えーっと、18さい!


18さいになったらおてがみとりだして、よみあいっこするの!


やくそくだよ!」




俺が出した小指に君も小指を絡めてくれた




「わかった、けーちゃん


ぼくもけーちゃんにおてがみ書くね」




それから指切りした俺達は拙い字でそれぞれの思いを書き綴り、手紙にして缶に入れると、地面へと埋める


18歳になったら結婚出来ると知って、俺はそれが楽しみで楽しみで、幼いながらに必死に考え結果だった気がする


懐かしい


優しい笑みを浮かべる君に、この想いを伝えたくて





――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――


――――――――――





「にゃーん」




懐かしい、夢を見た


幼かった前世の俺と君がタイムカプセルを埋めたときのことだ


君が俺の誕生日よりも遅いから、君の18歳の誕生日に取り出そうと約束したのだった


恐らく今日がその、約束の日になるはずだ


不慮の事故で死んで、何故か前世の記憶を持ったまま黒猫に転生した俺


君がどうしてるか知りたくて君の家に何度か行ったけど、そこにはもう君は居なくて


高校はどこか遠くで寮に入ってると誰かが話してるのを聞いた


君は忘れたかもしれないけど、俺はちゃんと取り出しに行くよ



俺はいつもの寝床を出て、約束の場所へ向かう


周りの人間の話し声やスマホの画面を盗み見るに、今日は2月22日で合ってるらしい


君の誕生日だ


あのタイムカプセルを埋めた場所は、実はぼんやりとしか覚えていない


それが、転生のせいで記憶が曖昧になってしまったからかもしれないと勝手に俺は思っている


もし俺が死ななければ、君と一緒に取り出しに行っていたのかもしれない


もし、なんて考えても意味はないのだが


少し遠いが、歩く


君との約束の場所へ


君を1目でも見るために


まぁ、君が来ない可能性の方が限りなく高いのだが


俺が死んでしまったから、君は俺のことを意図的に忘れてしまったかもしれないし


ツラツラと悲しい思考を続けながら、俺は目的地へと進む


君との思い出の場所へ


恐らくもうすぐで目的地へ着く、そんなときだった


見間違いかもしれない、君がここに居るなんて……




「…け、ぃちゃ……?」




君のちょっと眠そうなとろんとした目が、大きく見開かれていた


俺の目も、きっと驚きに見開かれているのだろう


だって、黒猫のこの姿なのに、君が俺に気付いてくれるなんて…


まさか、そんなはずないのに


でも先程、君は俺の名前を……



『よーちゃん…』



俺の言葉は猫の鳴き声として零れ落ちる


君を呼んでるのに、それが言葉として認識されない


それが辛い


でも君は俺の呼びかけに気付いたみたいに、俺の方へと歩を向けていた


ゆっくりと距離が近付き、君の手がそっと手伸びる


そして、触れる


嗚呼、懐かしい君の手だ…




「…これからね、タイムカプセルを取り出しに行くんだ


お前も一緒に来るかい?」


『覚え、てたのか…』




まさか、君が俺との約束を覚えてくれていたなんて


しかも、タイムカプセルを取り出しにきてくれるなんて


思いもしなかった


君が俺へと両手を伸ばし、胸に抱かれる


俺は素直に大人しく君に抱かれる


この温もりにずっと触れたかった


君は立ち上がり俺を抱いたまま目的地へと行く

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