第19話 神林 瞳の解説

「えー、それじゃあなにから話そうか。」


 憶人クンの話を遮っちゃったわけだし、簡潔に話して順番を譲ってあげるとしよう。


「決めた、恋が誰に、どうして殺されたのか、この二人は何者なのか解説しちゃうよ。」


 全員の視線が私に集まる。ランカ君とコハクちゃんが心配そうにしてるけど、そこはまあ、私の話術に任せないさい。


「はじめに、私の異能について説明しておこうか。名前は因果観景ラプラスライズ。過去未来問わず因果律が線のように見える。ロマンチックに言うなら運命の赤い糸?そしてそれに触れると三人称視点でそのイメージが見える。便利でしょ。」


「じゃあ、俺の攻撃を避けられたのって。」


 憶人クンは納得したのか、一旦腑に落ちた顔をした後できっと睨む。


「その通り、軌道が見えていたから。そして、触れたから。丸わかりだったよ。不意打ちも通じない。」


 寝ててもイメージが流れてくるのは勘弁して欲しいけどね。


「だから、恋はその少年少女を君に預けたのかな?ワシではなく君に。」


 白夜さんの問い。核心をついたそれを私はごまかそうとは思わなかった。


「ああ、少人数を守るなら私の方が向いているからね。」


 空気が重くなる。が、それは百も承知だ。


「じゃあ、みんな気になっているであろうこの二人、そして恋の最後を話すよ。」







 まず、私と恋と佑大は同期だった。これは白夜さんの話からも分かるかな。それで、私たちは優秀でさ、私は防犯やセキュリティ、佑大は紛争・テロの鎮圧、恋はスパイ活動で功績をあげてった。そのおかげもあって、とんとん拍子で出世していった。そのせいであまり会うこともなくなったけど。


「恋、久しぶりじゃないか。最近はどうだい?元気にしてる。」


 だから町中で偶然出会えた時は嬉しかった。


「、、、ああ。まあな。仕事も多いけど何とか。」


 ただ、そう言う恋は少しやつれてて、何よりたくさんの線が絡まっていた。


 ぎこちない返事。どう考えても何かを隠しているような態度。


「頭に糸くずついてるよ。取ってあげる。」


 女で良かったと思う。「女の秘密」そう言って私は二人に異能を隠してきた。(ちなみに軍部には未来視だということにした。)だから警戒していない恋。


「悪いね、取ってくれ。」


 了承を得て距離を詰め、糸を掴む。真っ赤な真っ赤な赤い糸。だけど、流れ込んできたイメージはそれ以上に深紅だった。辛苦だった。だって、


「・・・・・・恋、あなたは何人殺したのよ。少女を。」


 ついこぼれた私の言葉。恋は何も言わず私の手を引いて駆けだした。彼から出る糸を掴む。見えたのは彼の家だった。その中にさっき見た少女、そして少年?


 お互い軍人だから一切息を乱すことは無く家の前に着く。 


「入ってくれ。話は中でする。」


 無言でうなづき、見える線全てに触れながら入る。そして、私が完全に家に入り、戸を閉めた恋は土下座した。


「頼めるのがお前か佑大しかいなかった。巻き込んでごめん。」


 悲痛な叫び。生きることを諦めたような生気のない瞳。痛々しかった。それでも恋は話を続ける。


「この二人、ランカとコハク。おれが名前を付けたんだ。それでさ、こいつらを見つけたのが、政府の研究施設。察しのいいお前ならわかったかな?そう人体実験、クローンだ。異能の研究の為なんだとさ。資料はそこの棚に入れてる。」


 恋の指さした方には私たち三人の入隊式の時の写真が写真立に飾ってあった。


「おれが駆け付けた時には、少女の死体がたくさんあって、ランカがコハクを守るようにうづくまっててさ。まあ、その拾っちゃったんだ。理由はわかんないや。バカだなー、おれって。」


 わかってる。恋は孤児だったから。過去の自分と重ねて同情して、感情任せの選択をしちゃったんだってわかってる。


「ならさ、私を頼ってよだって私は・・・」


私は話してしまった私の異能、その詳細を。恋は驚いたような、悔しいような、安心したようななんとも言えない顔をした。


「ははは、なんだ。ならもっと早く打ち上げればよかった。そしたらどうにかなったかもしれないんだからさ。」


 恋の瞳に光が戻る。


「だったら。」


 救えるかもしれない。恋も二人も。


「だからダメだ。」


 淡い希望も恋の一言に砕かれた。ペタンと床に座る私。恋はそんな私をそっと抱きしめ、言った。


「佑大はどっか抜けてるからな。お前が一緒にいてやらないといけない。お前ならどうするのが正解かぐらいわかるだろ。」


 私たちへの優しさに、自己犠牲の決意。


「もうダメなんだね。手遅れなんだね。」


「ああ、おれができるだけかき回してみる。だから、後は頼んだぜ。隊長。」


「バカ。」


「ふっ、何回バカっていうんだよ。」


 ドン。胸に衝撃が走り、見上げる。おってガラスの割れる音。


「はは、最期ぐらいカッコよく締めたかったぜ。」


 口から血を吐いて、倒れる恋。背中から伸びる線を掴むと流れ込んできたのは二人組の狙撃手の映像。弾丸はホローポイント弾。貫通性なしだけど致命的。私が貫かれなかったのはそういうことだ。


 もしも、ホローポイントじゃなくて普通の徹甲弾だったなら私に線が触れて察知できたのに。


「あああああああああ!!」


 泣いたよ、子供みたいにわんわんわんわん。なのにそんな私をさ恋は、


「なぐなよ。せっかぐのがゔぁいいがおがだいなじだぜ。」


 肺に血が溜まって苦しいだろうに、私の頭をなでながらそう言ったんだ。ああ、ふざけんなよ。


「なんでだよ。何で恋が死ななきゃなんねえんだよ。」


 泣き止んだ私がそう言いながら顔を覗き込んだとき。恋は幸せそうな顔して眠ってやがったんだぜ。ああ、その時からだよ。ぶっ殺してやるって決めたのは。


 その後、佑大も巻き込んだ。五年長かった。時に政府に怪しまれて消されそうになった。そんな時は適当な犯罪者に濡れ衣を着せた。勿論死刑になることを確認してから。手段を択ばないと決めた。元来、私はそういう人間だから。







「そうしてかれこれ5年間。政府の不正の証拠を集め、今に至る。ご理解いただけましたか。」


 手の甲に血管が浮き上がり、嚙み締めた唇の端から血を流す白夜さん。


「ああ、全て合点がいった。ワシも最前線に立たせてもらおう。朱兎、鏡子、防衛は二人に任せる。いいな。」


 それでも彼は飲み込んだ。復讐がしたいから。これは怒りなんて生易しいものじゃないから。憤怒、確実に報復をするという覚悟。


「わかったよじっちゃん。」


「はい、おじい様。お任せください。」


 この二人は機動力、破壊規模、対人性能どれをとっても高水準。鏡子ちゃんに至ってはツクモンの一つ一つがⅧランク能力者と同程度。圧倒的手数と最強の個。これで、この作戦の防衛側は万全だ。なら、


「白夜さん、俺と魔夜はどうしたらいい?」


「お前たちは。」


 白夜さんがそう言った時だった。赤い糸が私の視界を覆いつくす。そのうちの一本に触れると。


「危ない!!」


「わかっておる、朱兎。」


「はいよ。」


 朱兎が私たちの前に立ち、ハイキックの姿勢で固定する。すると、突如として切れていく糸。本来私たちにあたるはずだった弾幕、鉄の雨が何かに砕かれた。


「じっちゃん。これはお咎めなしってことでいいよな。」


「ああ。どっちみちこうなっていた。少し早まっただけだ。」


 ああ、白夜さんといい憶人クンといい朱兎、治安維持隊はランク詐欺が過ぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る