第2話 俺があいつの護衛になった理由 2
――冒険者ギルド ラーペン王国支部にて
それからというもの、俺はできるだけ人混みを通るように逃げ、何とかギルドの前まで着いたのだった。
ここへ来るのはいつぶりだろうか、近衛騎士になる前は冒険者をしていた。
今も変わらない、古びた看板がかすかに揺れている。
「まさか、こんな形で戻ることになるとはな……」
「……おい、こんなところで何をしてんだよ?」
――!!! いつの間に背後を……!
全く気がつかなかった。まずい! 早く…… 剣をっ!
「そ、そんなに驚くなよ。悪かったな。少しいたずらを……っておまえ、シュベルトか!?」
「ん? おまえ……」
よく見えないが、この声からして、まさか……
「ほら、俺だよ。覚えてねえのか?」
「…………ゲルツ? なんだおまえか、驚かすなよ……」
ゲルツ、ここの冒険者ギルドのギルドマスターだ。
今は長くなった深紅の髪を、後ろに束ねている。
「はぁ……? 何だよ、そんなシケた面してよぉ。今さら何をしに来たんだ?」
「まぁ、色々あってな。近衛騎士を止めることにしたんだ」
「あぁ!? おまえっ、近衛騎士になれたことをあれだけ喜んでたのに、どうしたんだよ!?」
「…………」
どうしよう、ゲルツに本当のことを言うべきだろうか。
反応を見た感じ、手配書はまだ回ってきていない。どうしたものか……
「……とりあえず、話なら中で聞くぜ? おまえ、そのためにここに来たんだろう?」
「……ああ、すまない」
ここで、とりあえず策を練ろう。
そうして、俺はゲルツと一緒にギルドの扉をゆっくりと開けた。
~~
少し大きな空間に、立て看板と数個のテーブル、そして数人の冒険者と受付のお姉さんが居た。
……懐かしい匂いだ。
「マスター、帰ってきましたか」
すぐに受付のお姉さんがこちらにやってきた。
「おう、今から客室を借りるぞ。こいつと話がしたくてな」
「マスターが…… 彼と? はぁ……」
そして、まじまじと俺の顔をのぞいてくる。 初対面なんだが。
なんだ……? 俺の顔に何か付いているのか?
「まぁ、そういうことだ。行くぞ、シュベルト」
「あ、あぁ……」
ゲルツに手を引っ張られ、そのまま奥の方へ連れていかれた。
「すまねえな、あいつはまだ新入りなんだ。許してやってくれ」
「……説明すればいいじゃないか」
「は? めんどくせえよ」
「そういうところは何も変わってないな……」
「うるせえ」
痛っ…… 頭を叩くなよ!
強引に連れられ、入らされた客室。
中には簡素なテーブルと椅子2つだ。なんか昔王城で見た尋問室みたいだな。
「さあ、話し合いの時間だ。ここなら誰にも聞かれないぜ」
「ゲルツ…… 協力してくれないか」
もう、話してしまおう。
俺はゲルツに、今まで起きたことをすべて洗いざらい吐いた。
「……なるほどな。新王はそんなに腐ってやがるのか」
「ああ、手配書が回ってきた以上、ここを出るしかない」
「はぁ…… 最悪だな、やつが即位してから、治安悪化、増税、おまけに政治腐敗…… どうなってしまうんだか」
ゲルツは上を見上げながら、少し考え事をしている。
――新王アルデリウス。それは、先王と違う血筋から誕生した王だ。
先王は、平民でも優秀な人は重用するという考え方で、王国が一番繁栄した時代でもあった。
……今は全くの逆だが。
「よし、シュベルト。おまえ、荷車の中に潜め。それで関所をくぐれるかもしれんぞ?」
「そんなのが通用するのか?」
「あいつらの警備はザルだ。これも新王様のおかげだな」
大丈夫かよこの国……
まあいい、もう俺には関係ないことだ。
ローザ様…… っ、止めろ止めろ。俺とは関係ない……
「別に荷車に潜まなくても、魔法で何とかできる。馬車だけ用意できればありがたいんだが……」
「おうよ、任しとけ」
……俺がまだ駆け出しの冒険者だった頃、田舎出身の俺に色々と生きるすべを教えてくれた。
あいつのおかげで今の俺がある……といっても過言ではない。
俺の一番信頼できる男だ。
――コンコンコン……
不意にドアをノックする音が聞こえた。
「ん? おい、入って良いぞ」
「すみません、失礼します」
さっきの受付のお姉さんだ。どうしたのだろう。
「依頼を持ってきたお客様が居まして…… どうやら自分の商品を破壊した人を探し出したいとか」
「はぁ…… そういうのは衛兵に頼めよ。いや、今はそれも出来ねえか」
「ゲルツ、大丈夫か?」
「ん? ああ、心配するな。ちょっと行ってくる」
ドアが閉まる。 ひとりになった。
…………ちょっとばかし見ていくか。
俺も部屋を出て、さっきの受付の方へ行ってみる。
「……っ……、お願いします!」
「……すまねえが、俺たちもいっぱいいっぱいでな。出せる冒険者がいねぇ」
女の子と話しているようだ。
うーん、この声、どこかで……
そのまま受付まで来てしまった。
「……おう、来たのか。あそこに居てもいいんだぜ?」
「いや、大丈夫だ」
ん? なんかあの女、俺のことを見てるような……
「……っ、……っあなた! そう! あなたよ!」
「え?」
……俺を指さしているのか!? というかおまえ、さっきの……
「この人が私の商品を壊したの!」
「はぁっ!? 俺っ!?」
「は? ……なんでそうなるんだ?」
ゲルツのあきれ声が響き渡るのだった……
~~
さっきの部屋に戻って来た。
俺、ゲルツ、そして例の少女だ。
「んー…… おまえが壊したってことでいいか?」
「……ああ、ぶつかった時に、多分」
「金は?」
「王城に…… 置いて来た。今は最低限しか持ってない」
「はぁ…… どうすんだよ」
ゲルツはあちゃーって顔をしている。
……あーどうしよう。これじゃ本物の犯罪者だ……!
「弁償してくれないと困るんだけど、どうするの?」
「だよなぁ…… いくらだ?」
「えーっと……金貨200枚?」
「はぁっ!? お前何持ち歩いてるんだよ!?」
舌をペロッと出してごまかせると思うなよ……
ここに豪邸が立つレベルだ! 俺では到底払えない!
「おい嬢ちゃん。それはないと思うぜ?」
「……どうかしらね?」
こいつ…………めんどくせぇ……
「おい、シュベルト、どうする?」
「さあ、どうしたものか…… 今持ってる物と言えば、剣と、少し魔道具もあるが……」
ん? なんかあいつ反応したぞ? ほしいものでもあるのか?
「ね、ねぇ! 今、シュベルトって言った?」
「ん? あ、ああ。そうだが」
「私よっ! 私! メルサ! 同じ村の!」
「…………ああっ!! どこかで見たことがあると思ったら!」
この顔立ち、話し方、髪の色…… 間違いない!
メルサ、メルサだ……! なんで、こんなところで……
「ったく、何がどうなってるんだよ……」
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