第32話

「だって、婚約者を選んだのは事実でしょ?」


「うん、でもそれは会社のために」


そこまで言いかけて、冬美に大きくため息をつかれた。


わかってるよ、騙されたかもって言いながら、私は理樹さんの言う事を信じてる。


「副社長はどうなの?」


「よくわからない、秘書を辞退したいって言ったら、じゃ、ハウスキーパーを頼みたいって、言うし……」


「素直に亜紀を好きなんじゃないの?」


私は冬美の言葉に驚きを隠せなかった。


まさか、副社長とはビルの前で会ったのがはじめてだし、それからほとんど時間は経っていない。


「好きとか、心配なんだとか言われなかった?」


私は冬美の言葉に頭を巡らせていた。


「そう言えば、僕を好きになってくれって抱きしめられたような」


「やだ、そんな大事な事覚えてないの?」


「だって、理樹さんが東條財閥の御曹司って聞いて、パニックになっていたから」

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