あれから信じられない程の平穏な日々が流れた、まるで嵐の前の静けさの様に・・・

そんなある日一人の男性がマンションを訪れた。

「はじめてお目にかかります、私は冴木コーポレーション専務取締役の鈴木と申します、冴木雫様でよろしいでしょうか？」

「はい、そうです」

その男性は白髪混じりの落ち着いた感じの人だった。

「単刀直入に申し上げます、我が社の冴木峻と離婚して頂きたい」

「えっ？」

聞き間違いかと思った、でもすぐに内容が飲み込めた。

「奥様のスキャンダルの為に、会社は危機を迎えています、取引先やメインバンクが我が社に不信感を抱きはじめています」

私は大変な事になっていると感じ、小刻みに手が震えた。

「こちらにサインをお願いします、そして早々にこのマンションから出て行ってください、会社と社長を守る為です」

私の目の前に差し出されたのは離婚届だった。

「藤ケ谷社長のところへ身を寄せればよろしいかと思いますが如何でしょうか」

「そんな事出来ません」

「お腹の子は藤ケ谷社長のお子様ですよね？」

私はどう答えれば良いか迷った。

「とにかく、サインをして社長の前から姿を消して頂きたい、よろしく頼みましたよ」

専務取締役鈴木さんはマンションを後にした。

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