恋愛未経験の俺、ある日をきっかけにクラスの美少女の恋愛相談に乗って欲しいと頼まれるようになりました

柊なのは

前島彩葉は負けヒロインにはなりたくない

第1話 恋愛相談

 高校生になってから1つ思ったことがある。それは中学の頃より付き合っている率が高くなったこと。


 恋愛なんてまだ先だろと思っていた俺、北村結翔きたむらゆいとは、少しだけ焦りを感じていた。


 しかし、俺のようにクラスでひっそりといるような人は急に恋愛をしようとなっても相手がいない問題が発生する。


 幼馴染みがいるわけでもないし、女子友達がいるわけでもない。というか女子とほとんど話したことがない。話したとしても授業で必要な最低限の会話をするぐらいだ。


 このような状況になったのは俺がこれまで女子と接してこなかったから。だから恋愛をしたければ今からでも気になる女子と交流を増やさなければならない。


 そう、今、教室の隅で話しているクラスの人気者の前島彩葉まえしまいろはとサッカー部に所属している神崎のように。


(どうしよう……帰るタイミングを見失った)


 あちらが気付いているかわからないが、前島さんと神崎は俺が聞いてもいいのかわからない話をしている。


「神崎くん……い、今からどこか行かない?」

「ごめん、この後、サッカー部の練習があってさ。休みの日にまたで行こう」

「みんな……う、うん」


 前島さんは女子の中では美少女と言われるほどスラッとしたスタイルに笑顔が素敵な人だ。よく告白され、モテているが、話を聞く限り自分の恋愛は上手くいってない様子だ。


「じゃ、また」

「う、うん……またね」


 神崎は教室を出ていき、1人残った前島さんは暗い顔をして手をゆっくりと振っていた。


 いつも明るい前島さんだが、今の彼女は表情が暗すぎる。さっきの神崎との会話を俺が聞いていたなんて前島さんが知ったら気まずい雰囲気になる、そう思い、彼女から視線を外そうとすると目が合ってしまった。


(き、気まずい……)


 慌てて俺は手に持っていた小説を読む振りをする。しかし、前島さんは俺のところへ来て、そして前の席に座って体をこちらに向けてきた。


(えっ、何? 俺、マズイことでもした?)


 本から顔を上げるのが怖くなり、文字をじっと見る。教室には俺と前島さん以外誰も残っておらず、時計の針が動く音しかしない。


 シーンと静まり返る中、トントンと何かを叩く音がし、俺は気になり顔を上げてしまった。すると前島さんと目が合い、彼女は俺に向かってニコッと微笑んだ。


(嫌な予感しかしない……)


「北村結翔くん」

「は、はい……」

「恋愛相談に乗ってくれないかな?」

「……なぜ俺が?」


 前島さんは俺が彼女がいるか、恋愛経験がある人に見えたのだろうか。そう思っていると前島さんはニコニコと笑った。


「さっきの見てたでしょ?」

「! さ、さっきのって……?」


 聞いてないよアピールをしたつもりだが、彼女はスルーして、自分のことを語りだす。


「私、神崎くんとは中学から一緒なんだ……知ってるかもしれないけど、私、片思い中なの。頑張ってるんだけどいつも上手くいかなくて」


 知らない情報だ。前島さんが神崎に片思い中なのは知らなかった。知らなかったよと言ったら前島さんはまた暗い顔をするだろうから言わないけど。


 話によると前島さんが神崎を好きということはさっきの「どこか行かないか」はデートのお誘いだったわけか。


 前島さんと神崎は同じグループで、いつも一緒にいるので友達として遊びに誘うことはよくあることだと思っていたが。


「上手くいかないって多分、神崎は前島さんのことそういう風に見て─────」

「そういう風って?」

「……えっと、そういう風です」

「ふ~ん。まぁ、わかってるよ。私に魅力がないってことは。神崎くん、私よりあざとい系女子が好きそうだし」

 

 前島さんはそう言って俺の机に肘をつき、外を眺めた。


 神崎があざとい系女子が好きなのか初耳だ。前島さんの偏見かもしれないが。


「前島さん、魅了あると思うよ。人気者だし」

「もしかして口説かれてる?」

「そんなつもりで言ったわけじゃないけど……」


 魅了があるとかあんまり気軽に言わない方がいいのか。うん、勉強になった。


「北村くん、どうしたら神崎くんに振り向いてもらえるかな」

「恋愛未経験な俺に聞かれても……。けどまぁ、振り向いてもらうにはやっぱり相手を意識させるようなことをしたらいいんじゃないか?」

「意識させるようなこと……例えば?」


 例えばといわれましても俺なんかより前島さんの方がいい例えを持っているはずだ。


「スキンシップ多めとか」

「ベタベタ触れば好感度アップするのかな?」

「さ、さぁ……人にもよるかな。そう言うの苦手な人もいるし」


 後は相手との新密度によっても変わる。親しくない人にベタベタすると嫌われる可能性がある。仲がいいならまぁ、大丈夫だと思われるが。


「ところで前島さんは今まで神崎にどんなアピールを?」

「今までは遊びに誘ったり、髪型を変えたり。とにかく可愛さを武器にアピールしてたかな」


(あっ、魅力ないのかなって自信無さそうだったけど、可愛いのは自覚してるんだ)


「そうなんだ。もう気付いてもらえないなら告白する……とか?」


 神崎が中々気付かない鈍感な人であればどうアピールしても効果はない気がする。


「告白……さっきのあの状況で成功すると思う? 私は、100%振られる予感しかしないよ」

「…………」

「北村くんがうん、そうだねって言いたそうな顔してる」

「し、してないよ?」

「顔に出やすいタイプだ」


 じっーと顔を見つめられ、前島さんは顔を近づけてくる。


 こういうことを俺ではなくは神崎にしたら意外とキュンと来て上手くいくんじゃないかと思うのだが、どうだろうか。


「まぁ、告白するタイミングって大事っていうし、いい感じになってからの方がいいのかも、しれない……」

「いい感じ」


 前島さんは俺から顔を離すと「ん~」と考えるような表情をした。そしてスマホをポケットから取り出す。


「ね、連絡先交換しようよ」

「俺と?」

「うん、北村くん。友達に恋愛相談って恥ずかしくてできないから北村くんにこれからもお願いしたくて」


 これからもって俺が相談相手でいいのだろうか。恋愛未経験なのに。


「まぁ、話を聞くぐらいなら」

「ありがとっ!」


 連絡先を交換すると「いろは」という名前が追加された。初めての女子の連絡先だ。


「じゃ、また明日ね、北村くん。今日は相談に乗ってくれてありがとう」


 太陽な笑顔でニコリと笑った前島さんはこちらに向かって手を振ったので、俺は小さく手を挙げた。


 前島さんの恋愛相談役を引き受けたわけだが、これからどうなるか予想がつかない。けど、引き受けたからには彼女の力になろう。


 そう思った翌日。前島さんからメッセージが送られてきた。


『放課後、ファミレスに付き合ってほしい』


(なぜファミレス……)





        

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