第32話 太陽神殿での朝の礼拝

「ここが礼拝を行う場所です」


 光主に連れられてたどり着いた場所は天井も高く大広間のような広い場所だった。

 既に多くの神官服を着た神官たちが礼拝をするためにその場にいる。


 床には白い絨毯が敷かれており神官たちはその絨毯の上に整列するように直接座っていた。

 前方には大神官長を務める澄光と光主以外の美雨の王配候補者たちの姿もある。


 考えてみれば王配候補者は族長の身内なのだから全員この太陽神殿の神官であってもおかしいことではない。

 美雨の姿を見つけた王配候補者たちは軽く美雨に頭を下げたが月天だけは不機嫌そうな表情をしていた。


「美雨様はこちらにお座りください」


「はい」


 光主が示した場所は前方の少し右側に敷いてあった小さな白い絨毯の上だ。

 もしかしたら美雨のためにわざわざ用意してくれた席なのかもしれない。


 美雨が言われた通りにそこに座ると光主は大神官長の澄光の隣りに座る。

 神官たちが座っている正面の壁にはここに来る前に寄った教会と同じく丸い形の窓があった。


 おそらくあの時と同じようにこの丸い窓から太陽の光が射し込むのだろう。

 その下には数段高くなっている祭壇がある。


 広間には多くの人間がいると言うのに誰も口を開くことなく静寂の時がしばし流れた。

 礼拝の前の静寂が美雨の心も清めていくようだった。


 日の出が迫り窓の外が明るくなり始めると澄光が立ち上がり前方にあった祭壇に向かう。

 そして太陽の光が丸い窓から一筋射し込んだ。


「偉大なる太陽神よ。その力と恵みを我らに与えたまえ…」


 澄光の厳かな祈りの言葉で太陽神殿の朝の礼拝が始まった。

 最初の祈りを澄光が終えるとどこからか音楽が流れ始める。


 広間の端の薄い布で区分けされた部分に音楽を奏でる楽師たちが待機していたらしい。

 その音楽に合わせて神官たちが讃美歌を歌い出す。


(この歌の歌詞は光瑠ちゃんが歌っていたものだわ)


 光瑠が歌っていた時はただ可愛らしく感じたものだがたくさんの大人の神官たちが歌うと同じ讃美歌でも荘厳さを感じずにはいられない。

 太陽神殿に讃美歌が響く間も太陽は昇り続け丸い窓から入る太陽の光の明るさも増していく。


 讃美歌が終わると光主が立ち上がったのが見えた。

 光主は手に聖杯を持っていてそのまま澄光のいる祭壇に向かう。


 そして澄光と場所を交代してその聖杯を高く持ち上げ凛とした声で告げた。


「聖なる太陽神よ。力と恵みを持ってこの光族に永遠の生命を与えたまえ」


 その瞬間、太陽の光が眩しく輝いたように美雨は見えた。

 太陽の光を浴びながら聖杯を持つ光主の黄金の髪が煌めく。


 光主のたくましい身体も相まってまるで太陽神を具現化したような神聖で気高く力溢れる姿だ。


(なんて美しくて綺麗なのかしら…)


 美雨はその神々しいまでの光主の姿に見惚れてしまう。

 男性に対して「美しくて綺麗」というのはおかしいのかもしれないが今の光主を見て美雨はそうとしか思えなかった。


 美雨の胸はドキドキと高鳴り苦しいぐらいだ。


(なんでこんなに胸が苦しくなるんだろう。光主様を見ているだけなのに…)


 美雨には自分がなぜ光主を見るだけで胸が苦しくなるのか分からない。


 光主はそのまま聖杯を祭壇に捧げると澄光と交代して自分の席へと戻る。

 澄光の祈りの言葉が再び始まり礼拝が粛々と進んでいく。


 礼拝に集中しようとしても美雨の頭には先ほどの光主の姿が浮かんでしまいつい視線が光主の方に向いてしまう。

 その美雨の視線を感じたのか光主がチラリと美雨の方を見た。


 一瞬だけ光主との視線が交わった。

 金の瞳が太陽の光を受けて黄金に輝き美雨を射抜く。

 それと同時に僅かに光主が口元に笑みを浮かべた。


「…っ!」


 その瞬間、美雨は身体がカッと熱くなるのを感じた。

 慌てて視線を逸らしたが自分の顔が熱く火照っているのが分かる。


 この状態ではまた野乃に「熱があるのですか」と言われてしまう。

 美雨は自分の速くなった胸の鼓動を落ち着かせるように静かに呼吸を繰り返す。


(礼拝に集中するのよ、美雨。集中、集中…)


 顔を赤くしながら自分に暗示をかけようとする美雨の姿を光主がまだ横目で見ていて満足気な笑みを浮かべたことを美雨が気付くことはなかった。

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