第28話 勘違い
異世界人が城から出てくる前に此処を離れた方が良いかも知れない。
この世界の人にとっては醜いアリスだが、俺の世界の人間にとってアリスは凄い美少女だ。
割りと真面な生徒達だったが、権力や特権階級になると、おかしくなる人間が出て来ても可笑しくない。
幸い、借りている家は賃貸だ。
もう少し稼いだら……逃げ出すのも良いかも知れない。
まぁ、俺のとりごし苦労かもしれないけどな。
◆◆◆
家に帰ってきた。
そんなわけで、アリスとメリッサに相談してみた。
「アリスは獣人の国アニウォー以外なら何処でも大丈夫ですよ? 他の国なら何も変わりませんから」
「私はリヒト様に憑いているだけなので何処で生活しても同じですわ……もう地縛霊じゃありませんので」
「そう? それなら、帝国の方に少ししたら向かおうと思うんだけど良い?」
元の世界から来た人間の多くは魔王討伐や魔族の討伐に向かうという情報があった。
魔国から一番遠いのは帝国だ。
魔国が帝国に来るには、聖教国、王国を突破して来なくてはならない。
異世界人は魔国に隣接した聖教国から魔国へ向かっていくから、一番遠い帝国に居れば絡むことは無いだろう。
もし、こちらに来るなら更に離れた国に行くと良いかも知れない。
尤も、俺の取り越し苦労で何も起きないかも知れない。
だが、何か起きたらこちらには対処法が無いのだから、警戒しすぎという事はないだろう。
「別に構わないですよ」
「ですが、何故、急に帝国に行こうなんて考えたのですか?」
「異世界人に絡まれないようにと言うのと、少しでも魔族と遠ざかった生活をしたいから……そんな所かな?」
「アリスは何処に行こうと構いませんよ……リヒト様がしたいようにして下さい!」
「確かに、その方が安全ですね……ですが、異世界人はそこ迄警戒しなくて大丈夫ですわ。 王国に居るのは2週間から1か月。 すぐに魔王討伐に旅立ち、会う事はもうありませんわ」
いや……凱旋して帰ってきたら会うだろう。
「魔王を倒したり、手柄をたてたら帰って来るんじゃないか?」
「多分、戻らないと思います」
「帰ってくる可能性の方が低いですわ」
詳しく話を聞くと魔王討伐の旅は数年かかる。
そして魔王を討伐しても魔族との戦闘は終わらないから生涯戦い続ける事になる。
そういう事だ。
俺はやはり此処でも誤解をしていた。
魔王を倒して終わり……なんて物語だけの話だ。
自分の国の王様を殺されたら、普通は家臣は復讐に燃えるだろう。
そう考えたら倒して終わりじゃない。
その後もずうっと戦いは続く……
つまり、戦争なら終結するまで兵隊は生涯(引退するまで)戦い続ける。
それに近いようだ。
だったら異世界人は勇者や英雄とは名ばかりで、生涯戦い続ける兵隊という事になるんじゃないか?
どこで俺は勘違いした?
前の世界の小説と混同したのか……
うん?! なにかが引っかかる。
なにが引っかかるんだ……解らない。
ああっ……そうだ……今迄、召喚された異世界人はどうしたんだ?
この世界に来てから会っていない。
黒目黒髪の人に会っていない。
「今迄に召喚された異世界人は、その後どうなったんだ?」
「此処暫くと言う事なら、死ぬか戦えない大怪我をしたという話しを聞きました」
「異世界人はこの世界の最大戦力、とびっきりの待遇が受けられる代わり、その生涯は戦いの中で過ごしますわ。 若くして引退なんて出来ないから戦闘出来ない位の大怪我をするか、歳老いて引退するまで魔族との戦いが続きますわ。 新しい異世界人が来たと言う事はかなり多くの異世界人が死ぬか戦闘不能になった……そういう事だと思いますわ」
それ凄くヤバいんじゃないか。
「それって、異世界人は凄く悲惨なんじゃ……」
「その代りとんでもなく優遇されています!」
「そうでもありませんわ! 戦いと言う事なら悲惨ですが……地位、お金、異性、手柄をあげれば破格値の褒賞が得られますわ。しかも、それらを成し遂げる能力も女神様から貰える……そう考えるなら恵まれているとも取れますわね」
確かにそうだ。
だが、どう考えても争いごとが嫌いな人間の方が多いと思う。
例えば、俺がジョブを譲ってあげた子……どう考えても文学少女みたいで戦いとは無縁の様に思えた。
本当に大丈夫なのだろうか?
幾ら俺が考えても何もしてあげられないけどな……
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