うつ病と向き合うために

洗拓機

第一章

うつという病気

私はうつ病です。


誰がなんと言おうと、うつ病です。


精神科に行って結果も出ています。


診断から十ヶ月目にしてようやく通院が二週間に一度になりました。


それまでは、毎週毎週どれだけ辛くても行かなくては行けなかったのです。




うつ病を患っている人は、百万人以上いるといわれています。


十五人に一人は、一生に一度はうつ病になるそうです。


しかし、まだ認知度が低い、理解されないことの方が多い。


この現状、おかしくないですか?


他人事じゃないんです。


なのに、うつ病というだけで他人に傷つけられることも。




うつ病を理解してない人の多くは、うつ病=こころの病気=甘えだと思っています。


病院なんて行っても意味ないだろう。


薬なんかじゃ治らない。


そう言ってくるんです。


うつ病ではない、ましてや医者でもない人が何故そう言い切れるのでしょうか。




うつ病はこころの病気でもありながら、からだの病気でもあるんです。


うつ状態、つまりストレスはからだにも影響を与えます。




はじめは、頭痛や吐き気、からだのだるさから始まります。


この頃にはまだストレスをストレスと認知していません。


なおかつ、からだに症状が出ているので精神科という選択肢はありません。




私はまず内科に行きました。


(多くの人が最初は内科にかかるそうです。)


血液検査、尿検査、心電図。


ありとあらゆる検査をしました。


しかし、異常はありませんでした。




でもからだは異常だと訴えかけてきます。


とうとう、会社に出社することさえできなくなりました。




迷惑になるからと仕事を辞めました。


でも体調不良の原因はわからないので他の職を探しました。


家にいるときは、まだ調子が良かったからです。


しかも、どうしても生きていくためにはお金が必要です。


お金のためには、仕事をしなければいけません。


必死になって仕事を探しました。




やっと仕事が見つかっても、数日経つとまた原因不明の体調不良が起こります。


また、仕事を辞めざるを得ない状況になります。


一年ほどその繰り返しでした。




何度も言いますが、症状はからだに出るのです。


なので、うつ病は気付きにくい病気なんです。




今年に入ると、突然今までできていた趣味ができなくなりました。


そこで初めて精神的なものだと気付きました。


前の仕事でうつ病のことについて調べていたときに、趣味ができなくなると見ていたからです。


今までは趣味ができていたので「うつ病じゃない」と信じていました。




勇気を出して精神科に行くと、重度のうつ病だということが発覚しました。


いままでの症状全て、うつ病が原因でした。


それからは毎日、薬と通院のオンパレード。




副作用がひどくなかなか合う薬が見つかりません。


何度も薬を変えました。


あれもだめ、これもだめ。


お金もひどくかかりました。


毎週数千円。月にすると万は超える医療費です。


それでも、うつ病で動けない私は働くことができません。


余計にストレスが溜まっていきます。




どれだけ「今は療養中」と考えていても、根本的な気持ちは変わらないのです。


仕事も家事もできない自分に苛つき、悲しみ、発作を繰り返します。


申し訳ないという気持ちが一番ありました。


だから、何度も死のうと思いました。


私がいなくなれば、周りの負担が減ると考えていました。


でも、死ぬことさえ苦しくてできませんでした。


私は弱いのです。弱い人間なのです。


いや、むしろ人間以下の存在とさえ思います。




ちなみに、うつ病になりやすい人の特徴はいくつかあります。


真面目だとか、完璧主義だとか。


私は、私自身を不真面目な人間だと思っていたし、明るい性格でうつ病とは程遠いと思っていました。


実際はそんなことなかったのですが。




病院の診断で、私はもともとのコミュニケーション力が高いことがわかりました。


うつ病になってから、その能力は少し欠けてしまったものの、まだ自然と残っています。


例えば、人と会う時、笑顔でないと相手が嫌な思いをすると思っている人間なので、笑顔を心がけています。


どれだけ腹が立っても、笑顔でやり過ごすことさえあります。


最近になってそれこそが真面目なんだと気が付きました。


また、仕事ができないことを喜ばずに嘆いていることも真面目かと突っ込まれることもあります。


自分で思うよりもはるかに、私の性格は真面目だったのです。


程よく気を抜いてるつもりでしたが、全くで、いつも人に気を遣っていたことに気が付きました。




うつ病になった今も変わらず、他人と会う時は笑顔を心がけます。


そのため、しばしば心無い言葉をかけられます。






「うつ病に見えないね。」


「思ったより元気じゃん。」






私にはよく言われる「頑張れって言っちゃいけない」よりも、こちらの言葉のほうが重くのしかかります。


人と会う時に暗い顔なんてできないし、自然と自分を取り繕っているのでうつ病に見えなくて当然でしょう。


でも、そのうつ病に見えない笑顔は、あなたと話すために作られた笑顔です。


暗い感情が見えないように繕われている人格なのです。


そこに至るまではとても大変なのです。


人と会った後、一週間は寝込むし、会う前は頓服薬を飲んで会う準備をしています。


こころは、からだは、あなたに会うために必死なのです。


大げさに聞こえるかもしれませんが、命がけなんです。




電車は人が多くて疲れやすい。


それに、電車の発着メロディを聞くと、足が自然と前に出て飛び降りようとします。


それをなけなしの理性が必死に止めるんです。


どこかに行くだけでもまさに命がけ。


いつでもどこでも、「死」というものが隣り合わせなんです。




ここまで話しても、通じない人には通じないでしょう。


甘えと言ってくる人もいるでしょう。


どれだけ必死に生きているか。


きっと、知らない方が楽だったと思います。




父親にも、解ってもらえませんでした。


祖父や祖母には顔向けできなくて会いに行けません。


こんな人として、生き物として何もできない私は、恥だと思っています。




でも、頑張って生きているんです。


解ってもらえなくても必死で生きているんです。


ナマケモノに見えたとしても、頑張っているんです。私なりに。




「生きてるだけで偉い」




自分でそう言い聞かせています。


むしろ、うつ病を患っている人全てに伝えたいくらいです。


自分は何もできなくて、だめなやつだと自分で自分にレッテルを貼ってる人が多いのです。


私も未だにそうです。気をつけていても私はだめな人間だと思っています。


一番に私をナマケモノだと思っているのも私だと思います。


でも、生きてるだけで偉いんです。


この文章を読んでくれている方も、みんなそうです。


生きているだけで、とってもすごいことなんです。




生きていることを誇りに思っていいんです。


だめなことなんてひとつもないんです。




だから自分を、責めないでほしい。


必死に生きている人間を否定しないでほしい。


他人に自分の頑張りを評価される必要なんてなくて、


自分が自分の頑張りを評価すべきなのです。




とはいえ、私もまだ未熟者。


少しずつ考えを改められたらいいなと思い、今日も生きています。


毎日を、頑張って生きています。

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