第2話

目の前に置かれたオレンジと黄色の鮮やかなカクテルに見とれた。


 三浦さんの作るカクテルはいつもきれいだ。


 口に含むとお酒なのに甘くてさっぱりした味が美味しくて、味わいながら飲み干すと、「落ち着いた?」と声をかけられた。


「何があったの?泣いて来店するからびびったんだけど」


「………」


 今は三浦さんを独占できるみたい。


 身長が高い三浦さんはカウンターの向こうでも私より目線が高くて、私の様子を確認するために目線を合わせる三浦さんから、ふわっと甘い香りがした。


「同棲してる彼氏が、……帰宅したら、同じ会社の女性と、その……遭遇しちゃって……」


「……は?」


「言い訳とかするかなって思ったんだけど、萎えるから早く消えてって言われて、逃げてきちゃった……」


「……お前バカだろ。だから言っただろーが!その男はやめとけって!絶対何かあると思ったのにホイホイ付き合って…!」


「な!な!いつも優しい三浦さんが優しくない…!!」


「俺は忠告したのに、そいつに夢中だったから聞きもしないで付き合って同棲して泣かされて…、腹立つんだよ」


「うう……どうせ自業自得ですよ!!でも、三浦さんに優しくしてほしかったのに!もういい!!チェンジーー!!」


 いつもみたいに優しくしてくれると思ったのに、今日はキツイ口調で説教してくる三浦さんに余計に傷をえぐられて、担当をオーナーに変ってもらい、お酒を飲みながら愚痴愚痴こぼした。



「和希だって真穂ちゃんのこと心配して。今日みたいなことがあったから、その男にいらっとしちゃったんだよ」


「だとしても、だとしても!優しくしてくれたっていいじゃんよー!」


「真穂ちゃん酔いが早いから、今日はもう飲むのをやめた方が……」


「だって、だって、萎えるから早く消えろって。初めての彼氏にそんなこと言われるなんて、っ、思ってなかったし…浮気現場見ちゃっただけでも辛いのに…っ」


 目を閉じたらすぐに浮かんできちゃう浮気現場。

 

 皆こんな思いを乗り越えて次の恋に行くの?

 私には辛すぎるよ、お酒を飲む以外に逃げる方法が分からないよ……


「オーナー、今日は飲みたいの!おかわり!」


 私の様子に断りきれないと感じとったオーナーが弱めのカクテルで作ってくれるけど、こんなんじゃ全然足りないの。


 早く、早く忘れたい。だって辛すぎるから。

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