第10話

「店長っ!?」


 店長は大きなダンボール箱に手を添えたまま、床にへたりこんでいた。前髪がちょっと乱れていて、眉は八の字に下がっている。


 「腰、やっちゃいました。家内に電話してもらえますか? 動けなくて」


 動けなくて、の言葉にさーっと体温が下がるのを感じたそのとき、お店から、カランカランと楽しそうなチャイムの音が聞こえてきた。







 「では、えっと……お決まりのころに、ご注文うかがいますね」


 「あ、いいよ。決めたから。ウィンナーコーヒーひとつと、あとは……」


 「っ、はい」


 エプロンからメモ帳を取り出して震える手で書き留める。このお客さんはときどき見かける常連さんだ。「見ない顔だね」と不思議そうに見られたものの、慣れた注文の仕方をしてくれるので、なんとか対応出来る。


 急いでキッチンに駆け込み、店長に注文を伝える。椅子に座ったままなら大丈夫ということで、コーヒーだけは淹れてくれる。でも、それが限界だ。


 「本当に申し訳ない。では、これ、お願いしますね」


 「はい、」


 考える余裕もなく受け取ったコーヒーカップをトレーにのせて、またホールへ。


 動けない店長のかわりに初めてのホールを任されて、本当は泣き出したい気持ちだ。なんでわたしが、苦手で仕方ない接客なんて。いつもキッチンまで聞こえてくるさえこさんやくるみさんの声を思い出して、ほとんど見よう見まねだ。


 ひと息つく間もなく、カランカランと来客を知らせる音が鳴る。


 「いらっしゃいませ……」


 蚊の鳴くような声で出ていくと、聞こえたのか聞こえていないのか、やってきたお客さんは空いた席にさっさと腰を下ろした。じろりとわたしを見る。チェックのシャツ姿の中年の男性で、目がぎょろりと大きい。


 「いらっ、いらっしゃいませ。ご来店、ありがとうございます。こちら、メニューでございます」

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