第13話

山に建つラブホテルは、戸別になっていた。

塀入口から坂道を上がると、さっき見かけた黒い車が、一番奥の部屋にバック駐車している際中だった。


死角になる建物の間から車を止めて降り、そっと男女が出てくるのを待った。

傘も持たないから、びしょ濡れだ。

ほんの数十秒なのに、その時間がとても長く感じた。


バン!と勢いよくドアを閉めて、男が髪を気にしながら降りてきた。


「…あ」


あのブルーのシャツ。

一昨日、私がクリーニングに取りに行ったばかりの物だ。

眼鏡をかけているけれど、間違いなく夫の祐介。

心臓が鷲掴みされた様に痛くなる。


「もぉ、酷い雨ー」


少し遅れて助手席から降りてきたのは、20代と思われる細身の女。

二人は車のナンバーも隠さずに中に入って行った。

車は、わナンバーでレンタカーだと分かった。


体が、打ち付ける雨に切られそう。


声を出さなかったものの、私は泣きながら車に戻ってヘッドライトも点けずに走らせた。

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