第5話

* * *


夫の祐介とは、10年前、父の持ってきた縁談で一緒になった。


「弁護士で有能な男がいるんだよ」


当時、私は恋人もなく銀行員として働いていた。

同僚や上司に誘われたりもしたけれど、特に良い出会いがあったわけでもなく、私は、これも運命なのだと受け入れて見合いに臨んだ。



板垣いたがき祐介と申します。町内会長には普段からお世話になっておりまして…」


相手は、思いの外、好みの男だった。

爽やかで誠実的で、饒舌で。

この時は、この人が政治家を目指してるなんて思いもせずに、結婚後は銀行を辞め、“弁護士の妻”の座に就いたつもりだった。

それなのに。


「ゆくゆくは知事、そして国会議員になりたいんだ」


祐介の野心が行動に移り、次第に私の心も体も窮屈にしていった。

本来の私は、さほど社交性が飛び抜けてるわけでも、目立つ事が好きな方でもないからだ。

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